高い日本語能力を持つミャンマー人材の送り出しを行う「大樹日本語学校」と、厳格な選考と全寮制カリキュラムで人材を育成する「株式会社LivCo」。
国は違えど両者に共通するのは、よくある単純な現地日本語学校の運営ではなく、教育を通じた人材育成という視点です。外国人材を取り巻く制度が大きく変わろうとする中、お二人が語る現場の視点から、今後の日本における外国人材活用の在り方をお伺いしました。
YouTubeでもインタビューを実施していますので、ぜひ以下からご覧ください!
ミャンマー・インドネシアの現在地
中村:簡単に自己紹介をお願いできますか?
加藤社長:私は商社時代からミャンマーに関わり、2018年から3年間の駐在を経験しました。任期終了後も帰国せず、ミャンマーで起業を決意。現在は創業4年目を迎え、日本語学校の送り出し事業を2年間運営しています。ミャンマーでの事業経験は通算12年になります。
佐々社長:初めまして。株式会社LivCo代表の佐々です。学生時代、文科省のトビタテ留学JAPANでミャンマーに渡航し、現地の教育系NPOで活動していました。同時に、より現地における課題を掘り下げたいと思い、ミャンマー版の就活動画メディアを立ち上げました。実はその際に加藤さんとのご縁があり、今でもお世話になっています。
その後、日本に戻りリクルートで3年間、広告営業と新規事業開発に携わりました。ミャンマーへの思いは続き、副業として高田馬場などで在日ミャンマー人コミュニティと関わるうちに、支援の必要性を感じ、現在の事業を創業。今期で3年目を迎え、特定技能外国人紹介の登録支援機関に加え、インドネシアでの日本語学校運営と人材育成に取り組んでいます。
中村:元々ミャンマーにルーツがある中、なぜインドネシアで日本語学校を始めたんですか?
佐々社長:インドネシアに注力する理由は主に三つあります。第一に、ミャンマーの現状です。内戦状態による治安悪化や、男性の入国制限など、先行きが不透明な状況が続いています。ミャンマーの事情に精通しているからこそ、人材送り出しに慎重にならざるを得ませんでした。
第二に、インドネシアには既に優秀なスタッフが複数在籍しており、この人的リソースは大きな強みとなっています。さらに、2億8000万人という人口規模がもたらす将来性にも大きな可能性を感じています。
最後に、市場環境の変化があります。現在の登録支援機関の業務は、在日外国人の支援が中心です。しかし今後は、外国人採用を希望する企業は増加する一方で、来日する外国人の伸びは緩やかになると予測しています。この「売り手市場」の展開を見据え、現地での人材育成に力を入れる決断をしました。将来的には日本以外の国への展開も視野に入れています。
中村:佐々さんの運営する日本語学校の特徴があればお伺いできますか?
佐々社長:私たちの日本語学校の特徴は、大きく4つあります。
第一に、全寮制による徹底した生活指導です。ベトナムなど送り出し先進国の視察経験から、アジアと日本の文化・働き方の違いを埋めるには、生活習慣からの改革が不可欠だと考えています。朝6時の起床からラジオ体操、ランニング、掃除作法の指導、夜10時の就寝まで、スパルタ式の規律ある生活を実践しています。これはインドネシアではまだ珍しい取り組みです。
第二に、出口を見据えた専門的カリキュラムです。特定技能での就職先を外食、介護、ホテルをはじめとしたサービス業に特化し、入学時から業界別の専門カリキュラムを導入しています。一般的な学校が来日直前に行う専門教育を、私たちは早期から実施している点が特徴です。
第三に、日本人スタッフの充実した関与です。現地駐在の日本人教師も複数いますし、オンラインでも多数の日本人インターン生が授業に参加しています。その結果、学生の日本語発音の質が高いのが特徴です。
最後に、独自の教育プログラムとして体育・音楽の授業を実施しています。特に体育では、自前のグラウンドでサッカーや野球を通じてチームワークを学び、日本語での積極的なコミュニケーションを促進しています。
6ヶ月の集中プログラムでは、3ヶ月でN4とJFTベーシックA2の合格を目指します。インドネシア語と日本語の文法の違いから、最終的にはN4+~N3-レベルを目標としていますが、実践的な会話力では他校を大きく上回る成果を上げています。
中村:介護と外食分野での人材紹介を中心に事業を展開されているとのことですが、特に外食業界では高い日本語能力が求められる傾向にあります。N4+レベルの人材でも、実際の採用はスムーズに進んでいるのでしょうか?
佐々社長:現状、顧客への営業面では確かに課題があります。日本在住の外国人材と比べて日本語力で劣るため、一般的な外食ポジションへの採用は容易ではありません。
しかし、私たちは受け入れ企業に対して、外国人材に特化したポジション設計を提案しています。例えば、キッチンでの調理作業に専念する役割や、串カツの揚げ物専門など、高度な日本語コミュニケーションを必要としない職務を切り出すことで、マッチングの可能性を広げています。
なお、ビザ取得から入国までは最短で4ヶ月程度で実現可能な状況です。
中村:学生の募集方法や手数料はどのような形態を採用されていますか?
佐々社長:私たちの料金体系は、寮費、教材費、ビザ申請費用などすべての費用を含め、総額で20-30万円に設定しています。これはインドネシアの一般的な相場である50万円より20-30万円ほど安価です。
支払いについては、入学時に5-10万円の初期費用をいただき、残金は就職後10ヶ月の分割払いとしています。この後払いシステムの導入により、学生の経済的負担を軽減しつつ、学習に専念できる環境を整えています。
中村:ベトナムでは、一般的な送り出し機関では100万円前後、ブローカーを介する場合は追加で20-30万円ほどかかり、総額で130万円程度になることが珍しくありません。
そうした中で、ある大手日本語学校がホーチミンに進出し、手数料を大幅に値上げして展開を試みましたが、結果的に応募者が集まらず撤退を余儀なくされました。このケースは、単純な価格の安さだけが市場競争力を決定づけるわけではないことを示唆しています。
このような状況を踏まえ、インドネシア市場ではどのような価格感応度や市場特性を持っていますか?
佐々社長:私たちの事業において、価格競争力も確かに一つの要因ですが、最も重要なのは日本への送り出し実績とそれに基づく信頼関係です。実際、業界内では5-10年の実績を持つ企業の中には、SNSマーケティングを全く行わず、紹介のみで十分な集客を実現している例もあります。
そうした認識のもと、現段階の当社では、SNSマーケティングを積極的に展開して認知度向上に努めていますが、究極的にはこの業界が人と人とのつながりに基づくレピュテーションビジネスであることを強く実感しています。
中村:国外からの採用は具体的にどのような企業が最適だと思いますか?
佐々社長:受け入れ先企業の特徴として、主に二つの要点があります。
第一に、地域性の観点です。都市部では既に国内在住の外国人材の紹介が主流となっているため、海外からの直接受け入れは、国内人材の確保が困難な地方エリアの企業が中心となっています。
第二に、初期費用の負担能力です。海外からの人材は一般的に貯蓄が少ないため、住居の敷金礼金をはじめとする初期費用を企業側で負担できることが必須条件となります。このため、そうした費用負担が可能な企業に紹介先が限定されることになります。
中村:レオパレスが過去最高益を記録した背景には、外国人向け物件提供数の増加があるとのことですが、このような敷金礼金不要の物件サービスは、御社の人材紹介事業でも活用されているのでしょうか?
佐々社長:実は、当社は宅建免許を取得し、賃貸仲介事業を本格的に手掛けています。東南アジアの言語に堪能なスタッフが、物件検索から契約まで母国語でのサポートを提供し、外国人の方が入居可能な物件リストも保有しています。現在、SNS経由の問い合わせも含め、月間20-30件ほどの契約実績があり、利益率は高くありませんが、確実なニーズが存在していると考えています。
さらに、今後の展開として、飲食業界向けの新たなサービスも構想しています。特に、寮施設の不足により優秀な人材確保が難しい飲食店さんに、例えば、渋谷エリアに社宅を開発し、周辺の飲食店に対して「寮はLivCoが手配してあるので、採用が力強くなります。結果、より日本語能力の高い人材の確保ができるようになります」といった付加価値を提供する事業展開できないか、検討しています。
中村:一方、加藤さんはミャンマーのどこにポテンシャルを感じて進出されたんですか?
加藤社長:佐々さんが先ほどおっしゃっていたことがその通りだなと思って聞いてました笑。
2013年から前職で一貫してミャンマーを担当してきた経験から、現地の若い人材の優秀さとモチベーションの高さに着目し、彼らの日本での活躍に確信を持ってミャンマー市場に注力してきました。
2020年4月の起業直前、人事部門から情勢不安を理由に退職の取り下げを勧められましたが、既に決意を固めていたため、予定通り独立の道を選びました。しかし、2021年のクーデター発生後、当初は半年から1年程度での情勢安定を予想していたものの、現実には終息の見通しが立たない状況が続いています。
佐々さんのご指摘の通り、政治リスクへの評価が甘く、楽観的な見通しを持ちすぎていたことは、今となっては大きな教訓となっています。
中村:でもそこからもう大躍進を遂げていて今、年間で何名ぐらい紹介しているんですか?
加藤社長:正直、別に大躍進してなくてですね。
起業当初を振り返りますと、退職を決意した時点では具体的な事業プランを持ち合わせていませんでした。退職後約1ヶ月は方向性を見いだせないまま過ごしましたが、貯蓄も限られている中で、とにかく行動を起こす必要性に迫られました。
最初の事業展開として、ミャンマーでの引っ越しサービスや通訳サービスのEコマースプラットフォーム構築、さらにはアイドル事業など、様々な事業に挑戦しましたが、当時のミャンマーの情勢もあり、いずれも成果を上げることができませんでした。
転機となったのは約1年半前で、ご縁があって専門学校と送り出し機関の仲介事業に参入しました。まだ2年目の新参者ではありますが、昨年は約250名の方々を日本に送り出し、現在も活躍していただいています。
中村:年間で250人っていうと、相当すごい印象があるんですけど、どんなふうに捉えてるんですか?
加藤社長:事業の立ち上がりは当初の予想を上回るペースで進んでおり、今年度は送り出し人数を500名規模まで拡大することを目標としています。
これは、佐々さんをはじめとする多くの方々からのご紹介によって実現できている成果です。私自身は主に現地での業務に注力しているため、日本での営業活動は限られていますが、様々な企業との協力関係を築くことで、紹介案件を通じた事業展開を実現しています。
中村:学校の日本語教育の特色みたいなところはでいうと?
加藤社長:当校の特色は主に3点あります。
第一の特色は、独自の全寮制教育システムです。約60校の提携校から紹介された生徒たちは、企業面接合格後すぐに入学し、6ヶ月間の全寮制教育を受けます。特筆すべきは、高校野球の強豪校のような厳しい指導体制です。単なる日本語教育だけでなく、精神面の鍛錬に重点を置いています。
これには明確な目的があります。東南アジアでは一般的に人前での叱責文化が少ないため、来日後の職場での厳しい指導に戸惑いや離職につながるケースがあります。そのため、あえて厳格な指導を行い、日本の職場文化への適応力を養成しています。
第二の特色は、充実した日本人講師陣です。現地で活躍する飲食店経営者や柔道指導者など、様々なバックグラウンドを持つ4名の専任講師に加え、駐在員の配偶者の方々もボランティアとして参加しています。さらに、海外在住の日本人学生によるオンライン授業も実施しており、合計約10名の日本人が教育に携わっています。
第三の特色は、実践的な課外活動プログラムです。運動面では、オリンピック級の専門家による週3回の体育指導を実施し、身体面での就労準備を整えています。また、音楽面では、特徴的なアプローチとしてカラオケ教育を導入しています。職場での人間関係構築を見据え、あえて美空ひばりなど、年配の日本人が親しむ楽曲を中心に指導しています。これは職場での交流機会の創出を意図した取り組みです。
技能実習制度の廃止が確定した中での手数料問題
中村:現在、海外では求職者からの手数料徴収が一般的ですが、これには課題があります。特に、来日後の借金返済のために、より高給を求めて都市部へ流出する傾向が生まれ、地方での人材定着が難しくなるのではないかという懸念があります。
この構造的な課題について、どのようにお考えでしょうか?また、特定技能制度下での地方での人材定着に向けて、どのような対策や展望をお持ちでしょうか?
佐々社長:この課題について、いろんな論点があると思っています。
まず、初期費用の徴収についてです。私どもも5万から10万円の初期費用をいただいていますが、これには重要な意味があります。野球のグローブで例えると、自己負担で購入したものは大切にする傾向があるように、ある程度の金銭的コミットメントは、学習意欲と継続性の維持に効果的だと考えています。実際、完全無料のプログラムでは退学率が顕著に高くなる傾向が見られます。
次に、都市部への人材流出については、これは借金返済の有無に関わらず起こり得る現象だと考えています。より高収入を求める意欲や、都市部での生活を望む若者の志向は、日本人と同様、外国人材にも共通する自然な欲求です。そのため、手数料の問題と都市部への流出は、必ずしも直接的な因果関係があるとは言えないと考えています。
そこで、地方での人材定着に向けては、単なる就労支援だけでなく、コミュニティ形成に重点を置くべきだと考えています。実際に現場で関わる中で見えてきたのは、都市部への移動の背景には、休日のフットサル活動や、異性との出会いの機会など、生活の質に関わる要素が大きいということです。これらのニーズに応えるため、地方での同国人コミュニティの形成支援や、生活基盤の整備に注力する方が、より効果的な定着策になるのではないかと考えています。
「特定技能2号」を見据えた”採用基準”が大切?
中村:現在、特定技能2号の制度化が進む中で、長期的な定着を目指すには、高度な日本語能力の習得が不可欠となってきています。この観点から、就労開始時点である程度高い語学力を持っていることが、将来の成長に大きく影響すると考えられます。
一方で、全ての求職者に対して十分な学習機会を提供することは困難ですし、外国人側も自ら学習を継続していく必要があると思います。そうなると、全員が2号に移行できるわけではなく、結果として2号移行が可能な人材が限定されていくのではと考えています。なので、企業側の視点からも、単なる人材確保ではなく、長期的な定着と成長を期待する場合、応募者に求められる基準は自ずと高くなるのかなと。
このような状況下で、どのように採用基準を設定され、将来的な成長可能性を見極めていらっしゃいますか?
加藤社長:ミャンマーの特殊性について、特に日本語能力の観点からお話しさせていただきます。
ミャンマーではJLPT受験者が毎回10万人を超えるなど、日本語学習が非常に盛んです。そのため、外食分野の特定技能では、N3保持者でも、面接に苦戦するケースが多いのが現状です。
そうした中で、当校の特徴として、N3レベルで入学した学生の8-9割が6ヶ月の研修期間中にN2に合格しています。これにより、来日時点でN2を保持しているため、特定技能2号への移行に必要な語学要件については、ミャンマー人材は比較的優位な立場にあると考えています。
ただし、特定技能2号への移行には、外食業界の場合、副店長クラスなど相応の責任あるポジションが求められます。この点については、今後の実績を注視しながら、適切な育成・支援策を検討していく必要があると認識しています。
佐々社長:インドネシアはでは、言語面での大きな差異があります。ミャンマー語は日本語と文法構造が類似しているのに対し、インドネシア語は大きく異なります。そのため、インドネシアの学習者はN4レベルでも苦戦を強いられ、N2取得は極めて困難な状況です。
次に、社会経済的背景の違いが挙げられます。インドネシアは現在、政治的に安定しており、国内での就職機会も豊富です。例えば、都市部でのGrabドライバーや地方での就労など、選択肢が多様です。一方、ミャンマーでは、現状、日本語習得が将来の希望につながる重要な手段となっています。
さらに、両国から日本に来る人材層にも違いが見られます。ミャンマーからは高学歴・高スキル人材が日本を選択する傾向にある一方、インドネシアの最上位層は国内の高給職や欧米豪への留学・就職を選択する傾向にあります。そのため、インドネシアからは比較的幅広い層が来日しているのかなと。
中村:日本側がそのレベルに至らなかったとしても、運用できるような体制を作っていかないと、やっぱり集まってこれないですよね。
佐々社長:最初の厳格なフィルタリングも、私たちの重要な特徴の一つです。インドネシアの一般的な日本語学校では、応募者の約8割が入学できる傾向にありますが、当校では応募者10名に対し、合格者は2-3名程度に留めています。
具体的なフィルタリング方法として、面接審査に加え、SPIに類似した知能検査を実施しています。これは、基礎的な知的能力と日本語習得能力には強い相関関係があるというデータに基づいた取り組みです。一定水準以上の知的能力を持つ応募者のみを受け入れることで、効果的な教育と確実な語学力向上を実現しています。
中村:お二方の取り組みは、業界の一般的な実践と比較しても非常に先進的だと感じます。私がベトナム出張等での経験から申し上げますと、多くの日本語学校兼送り出し機関では、このような徹底した取り組みは見られません。
一般的には、教育の質や人材の選別よりも、接待を通じた営業活動に注力する傾向が強いですし、また、家族面談など本質的でないプロセスを追加することで、教育の質の高さを演出する例も見られますが、それらは往々にして教育効果とは結びついていないケースが多いと感じています。
佐々社長:加藤さんの方が多分送り出し歴は長いかと思うんですけど、その辺の最初のフィルタリングの工夫みたいなのはやっていますか?
加藤社長:実は、当社ではそこまで厳密な選考プロセスは実施していません。地方の提携校からの紹介を受けた後、リクルーティングチームによる面接を行い、上位候補者を企業に紹介するという、比較的シンプルな流れです。
これが可能な理由は、ミャンマーの特殊な状況にあります。現地では日本語能力の高い人材層が厚く、本来であれば大企業での就職も可能な優秀な人材が、技能実習生や特定技能の枠組みでの来日を選択しているのが現状です。そのため、特別な知能検査等を実施しなくても、通常の面接を通じて十分な能力を持つ候補者を見出すことができています。
ただし、これは現在のミャンマーの特殊な社会情勢による面が大きく、優秀な人材が本来の活躍の場を失っているという点では、残念な状況であるとも認識しています。将来的にこの状況が継続するかどうかは、不確実な要素が多いと考えています。
中村:厳格な全寮制教育システムにより、自然な選別プロセスが機能しているんじゃないですかね。いわゆるPL学園のような厳しい教育体制の中では、規律や継続性に課題のある学生は自ずと脱落していく傾向にあります。結果として、日本での就労に適性の高い、意欲と忍耐力を備えた人材のみが残っていく仕組みが確立されているのではないでしょうか。
佐々社長:当社は年間300-400人規模のマッチングを日本側で行っていますが、率直に申し上げて、まだまだ「どこの送り出し機関で育成されたんだ」と思ってしまう人材は多いのかなと。
この課題の本質は、現地教師の教育姿勢にあると考えています。多くの場合、教師は学生から好かれることを優先し、その場限りの表面的な関係性を重視してしまう傾向があります。しかし、加藤さんのような厳格な教育方針のように、日本で真に活躍できる人材を育成するためには、時として学生から嫌われる覚悟を持って指導に当たる必要があると思うんですよね。
残念ながら、このような中長期的な視点に立った教育を実践できている送り出し機関は非常に少ないのが現状です。大多数の送り出し機関は本質的な教育より表面的な対応に終始し、必要以上に寛容な指導に留まっている気がします。加藤さんのような真摯な教育方針を持つ送り出し機関が増えれば、業界全体の質的向上につながると思うんですけどね。
中村:送り出し機関の課題の一つとして、日本で働く人材を育成する教育機関でありながら、その運営主体の大半が日本人以外であるという現状があります。
同国人に対する教育において、日本企業特有の厳格さを求める必然性は低く、またその価値を十分に理解することも難しいと思うんですよね。
その意味で、加藤さんや佐々さんのように、日本人が直接学校運営に携わっているケースは、日本の企業文化や価値観を直接反映した教育が可能となり、それ自体が大きな強みとなります。また、受け入れ企業にとっても、日本人による運営という事実が一種の品質保証として機能しているのではないでしょうか。
インドネシア・ミャンマー人材は今後も増えつづける?
中村:現在の外国人材市場について、いくつかの興味深い動向が見られます。統計データによると、ミャンマーやインドネシアからの人材は増加傾向にある一方、これまで主流だったベトナムは、実数としては増加しているものの、相対的なシェアは低下しつつあります。
また、市場の新たな動きとして、インド、バングラデシュ、ネパールといった南アジア諸国に拠点を構える企業の動向がメディアで頻繁に報じられるようになってきています。
このような状況を踏まえ、現在の市場の過熱感が頂点に達しているのか、また今後どのような展開が予想されるのか、業界の見通しについてどのようなお考えですか?
加藤社長:外国人材市場の今後については、まず、ベトナムからの人材流入が減少している背景には、同国の経済発展があると思っています。国民所得の向上に伴い、日本で働くことの相対的な魅力が低下しているためです。
一方、ミャンマーの状況は大きく異なります。具体的な数字で申し上げますと、同国の1人当たりGDPは2023年時点で1,180ドルとなっています。注目すべきは、この数値が10年前の2013年と全く同じだという点です。世界経済が同期間で約25%の成長を遂げている中、ミャンマーの所得水準は停滞を続けています。
このような経済的停滞を背景に、ミャンマーからの人材流出は今後も継続すると予測されます。自己成長の機会を求め、より良い収入を得るための選択として、海外就労を目指す傾向は、当面の間、強まることはあっても弱まることは考えにくい状況かなと。
佐々社長:当社はミャンマー、インドネシア、ベトナムを中心に企業へご紹介しており、南アジアへの進出は控えている状況です。各国の状況を個別に見ると、まずベトナムについては、2024年時点で外国人労働者全体で52-53万人が日本に在留しており、特定技能に限っては最大規模を維持しています。ただし、人材の質的変化が見られ、今後10年程度で緩やかな減少トレンドに入ると予測しています。
ミャンマーは加藤さんのおっしゃる通りで、まだまだ成長の余地が大きいと考えています。
一方、インドネシアについては、2.8億人という人口規模を考慮すると、ベトナム(人口約1億人)が約10年で緩やかな減少トレンドに入ったことから推測して、今後25-7年程度は安定的な人材供給が期待できると考えています。
近年注目を集めているネパール、スリランカ、インド北東部については、現実的な課題も存在します。例えば介護分野では、利用者との文化的な相違による課題も指摘されています。現状では、受け入れ実績のある東南アジア諸国からの人材で十分対応可能と判断しています。
では、もっと将来を見通した時に、現在の主要供給国が成熟期を迎えた後、「アフリカなどの新規市場にいくのか?」と言われることもありますが、文化的な差異が大きく、慎重な検討が必要だと思っています。
むしろ、現在の供給国でより深い市場開拓が可能ではないかと考えています。例えばベトナムでは、従来の中間所得層から、より経済的に厳しい層へと来日される方が移行していると思うんですね。ただし、この層の中でも、送り出し費用の高さや教育システムの未整備なことを理由に、日本に行きたくても行けない人がたくさんいるんじゃないかなと。
今後は新たな国への展開よりも、既存の国々でより深い層まで掘り下げ、適切な教育システムを構築することの方が重要だと考えています。
就労先として日本は選択されるのか?
中村:外国人材目線で見た時に、円安の影響で、金銭的メリットは依然として存在するものの、以前と比べると相対的な優位性は低下してきているように見受けられます。メディアでは日本の求人市場としての魅力低下や、外国人材の離散を指摘する声も多く聞かれますが、実際の現地での評価や反応はいかがでしょうか。
また、就労先としての日本は、現地において依然として選択される国の一つとなっているのでしょうか。
加藤社長:日本のメディアでは、円安や国力の低下により外国人材にとっての魅力が失われているという報道が目立ちますが、ミャンマーの場合、状況は大きく異なります。
具体的には、ミャンマーの自国通貨であるチャットの下落率が円以上に大きいため、円ベースでの収入の相対的価値は、むしろ上昇しています。その結果、日本で働くことの経済的メリットは以前より増大しており、就労先としての日本の魅力は一層高まっているのが実態です。ミャンマーだけ、ちょっと異次元の状態ですね。
佐々社長:インドネシアの人材動向は、社会層によって大きく異なります。上位層は欧米、シンガポール、オーストラリアなどを志向し、最近では欧米企業によるジャカルタでのリモートワーク求人も増加しています。例えば、現地で月10万円程度の給与のエンジニアを15万円で雇用するなど、英語力があれば日本語習得の必要がない選択肢も広がっています。
日本に来ている層は主に中間層です。メディアでは日本の影響力低下を報じていますが、実態は日本の魅力が低下しているというより、選択肢が多様化していると認識しています。1990年代後半には、アジアでの就労先は日本が主流でしたが、現在は韓国やシンガポール、自国での就労など、選択肢が増えています。
実際、時給ベースでは韓国が日本を上回っているにもかかわらず、日本が選ばれる理由は複合的です。社会の平和、職場の安全性、ハラスメント対策の充実、国民性の温厚さなどが評価されています。また、親世代の日本での就労経験が子世代の選択に影響を与えているケースも多く見られます。
さらに、地理的な近接性による時差の少なさ、アニメなどの文化的影響力も重要な要因です。ホリエモンも指摘するように、人材の移動は単純な賃金比較だけでは説明できず、治安、文化、労働環境など、総合的な要因によって判断されています。このような日本の総合的な魅力は、今後も継続すると考えられます。
育成就労に対する現地人材の見え方と市場の反応
中村:技能実習制度や特定技能制度に加えて、新たに育成就労制度が導入されることになりますが、現地の求職者たちは、これらの制度をどのように評価し、選択していくとお考えでしょうか?
加藤社長:それぞれメリット・デメリットあると思うんですけど、ちょっとこれわかんなくて。
ミャンマーだと圧倒的に特定技能に流れるんですよ。インドネシアはみんな技能実習生で行きたがるじゃないですか。
佐々社長:ミャンマーとインドネシアでは日本語学習の開始時期が大きく異なります。ミャンマーの人々は最初から日本語を勉強している一方、インドネシアでは9割くらいの人が日本語学校に入ってから学習を始めます。
このため、インドネシアでは来日までの期間が重要な判断基準になっています。技能実習の場合、先に内定をもらい、その後6ヶ月の勉強で来日できます。一方、特定技能は6ヶ月の勉強の後に内定を取得し、さらにビザ申請に5ヶ月かかるため、合計11ヶ月を要します。
実際に候補者たちと話してみると、日本での転職のしやすさや賃金の違いよりも、どれだけ早く日本に行けるかという点を重視する傾向が強いようです。残念ながら、長期的なキャリアよりも、短期的な来日時期を優先して判断しているのが現状です。
中村:このような短期的な視点が、実は危険な状況を生み出していると思っていて。特定技能に関するFacebookグループでは、給与明細が頻繁に共有され、それを見た人々が安易に転職を繰り返すような傾向が出ています。短期的な判断で来日した人ほど、より条件の良い職場へと簡単に流れていってしまう傾向があり、これは懸念すべき問題な気が。
佐々社長:本当に良くないんですが、市場としてはそうなってると思いますね。
中村:そうすると育成就労だったら、どんどん転職していくんじゃないですか?となると、育成就労で日本企業が受け入れる意味ってあんまりないですよね?
加藤社長:技能実習制度における3年間の拘束は異常な状態で、これが人権侵害という指摘を招く原因となっていました。これからは企業側も、単に人材を確保するだけでなく、適切な賃金設定や労働環境の整備など、人材定着に向けた努力をしていく必要があります。それが当たり前の姿になっていくべきだと思うんですけどね。
中村:実際に現状の育成就労制度の骨子が決まるまでに、何回かちゃぶ台返しが起きていたので、それ以後の日本を引っ張っていく、リーダーの考え方次第でまた大きく変わってきそうな気がしますね。
佐々社長:現状、転職のブロックが1年か2年か曖昧じゃないですか。
これがどっちになるかで、だいぶ違うんじゃないかなと。2年になったら、僕は結構技能実習に近い制度になると思うんですよね。なので、まだ育成就労について考えても意味ないなと思って、誰も何もアクションを起こしてない状態なのかなと思います。
あとは民間企業が参入できるかどうか。特定技能と同様に、我々みたいなベンチャー企業が入っていけるかどうか。正直、組合しかできないのは意味がわからないですね。
一方で、特定技能も転職が結構発生し始めている状況がある。年間の特定技能の離職率26%っていうデータもあったりします。そんな中、日本人のフルタイムの全業種の離職率は17%。ここにはオフィスワークも入ってるので、実質ブルーカラー・サービス業だけに限るとおそらく20%ぐらい。つまり、外国人は手間暇がかなりかかるのに日本人より離職率が6%高い。結果として、「外国人採用めんどくね」って受け入れ企業側思われる可能性が結構高いなと感じています。
中村:今のやり方では本質的な解決にはならないですよね。日本企業はこれまで、ただ人件費の安い国を次々探してきて、今に至ると思うんですが、もう護送船団方式が終わった今、それじゃ通用しない。
これからは企業自身が、賃金を上げたり、働く環境を良くしたりと、人材に長く働いてもらうための努力をしていく必要があります。そういった取り組みをするかどうかで、選ばれる企業とそうでない企業の差がはっきり出てくると思います。でも残念ながら、多くの企業は自分たちの問題として向き合おうとしていないんですよね。
加藤社長:そうですよね。外国人は日本語ができないし、登録支援機関への費用も高いって考えちゃいますよね。だったら日本人の若い人を採用すればいいじゃないかって話になるんですけど、実際には日本人が採用できないから外国人採用に向かわざるを得ないわけです。
転職されるからって理由で外国人採用を敬遠する企業の声を聞くと、正直悲しくなることもあるんです。おっしゃる通り、企業側も外国人材に長く働いてもらうための努力をしないといけないんですよね。ただ悪口を言っているだけじゃ何も解決しないと思います。
中村:企業側にも当然いろんな意見があるでしょうし、私たちはあくまでサプライヤー側の立場からの意見なので、両者でうまく折り合いをつけていく必要があると思います。
ただ、佐々さんがおっしゃるように、実際に転職率が高くなってきているのは事実です。特に地方の郊外にある不人気業種ほど、その影響を強く受けているんじゃないでしょうか。
佐々社長:最近テレアポをしていても多いです。外国人はもうやりたくないみたいな。
中村:でもそうは言っても、他に選択肢がないと思うんですよね。外国人採用をやめて、給与を上げて日本人を採用しようとしても、職種によっては難しい場合が多いと思うんです。
佐々社長:このままだと、そういう会社は潰れていくんじゃないかと思っています。ある政治家の指摘にもあったんですが、特に地方の製造業や建設業では、技能実習制度があるからこそ、低賃金で安定した雇用を維持できている会社が多いと。
この制度がなくなれば、地方の製造業や建設業で倒産が相次ぐことになります。そうなると日本のGDPはどうなるのか。新しい起業家は本当に現れるのか。国民はそれを良しとするのか。国際競争力が低下することを受け入れられるのか。でも、そもそもそういった議論の前提が技能実習制度ありきというのは、本末転倒なんじゃないでしょうか。
中村:でも、一方で働く人が減っていくのであれば、企業は存続するために給与上げないと採用できないわけじゃないですか。となると、条件がもっと良くなって、売価も上がっていってっていう方向性もありますよね。
佐々社長:適正な給料を払うと赤字になってしまう会社が確かにありますよね。ひろゆきさんの理論では『それが資本主義だ』ということになるんでしょうが、実際の日本ではそう単純にはいかないですよね。
加藤社長:外国人の転職率が高いというより、日本人の転職率が今まで低すぎたんだと思うんです。終身雇用制度で守られてきた部分があるんですよね。
私は42歳なんですが、私の世代は『入社したら定年まで』という考え方が普通でした。でも今のZ世代を見ていると、3年くらい働いたら次の会社でキャリアアップを目指すという感覚が一般的になってきています。
これからは日本人もどんどん転職するようになると思うので、外国人の転職率が特別高いというより、むしろ日本の雇用慣行が世界標準に近づいてきているだけなんじゃないでしょうか。
編集後記
本日は外国人材の現地日本語学校を展開するお二方をお招きし、ミャンマーとインドネシアにおける人材採用・育成の特徴と課題について、貴重なお話を伺うことができました。
両国の状況は大きく異なり、それぞれに特徴的な強みと課題があることが明らかになりました。外国人材の採用をご検討の企業様におかれましては、各国の特性を十分にご理解いただいた上で、最適な人材戦略をご検討いただければと思います。