外国人雇用は在留資格に注意しながら、メリット・デメリットをふまえたうえで雇用することが大切です。就業環境の構築など、企業側の準備や受け入れに向けたサポート体制を構築することも重要になります。
本記事では、外国人を雇用する際の注意点やメリット・デメリット、雇用前の準備や手順を解説します。YouTube動画では応募が来やすい求人を紹介しています。ぜひ、あわせてご覧ください。
外国人を雇用する際の注意点
大前提として、外国人を雇用する際は以下のような観点に気をつける必要があります。
- 業務内容と在留資格が一致するか確認する
- 日本語能力を対話形式で確認する
- 日本人と同一条件で募集をする
- 労働条件をしっかり伝える
- 日本独自のルールを理解してもらう
それぞれ、細かく見ていきましょう。
業務内容と在留資格が一致するか確認する
外国人を雇用する際は、自社の業務内容と在留資格で認められた職種が一致するか確認しましょう。外国人がもつ「在留カード」から内容を確認できます。
誤った雇用をおこなうと、3年以下の懲役または300万円以下の罰金、あるいはその両方を科せられる可能性があります。トラブルを避けるためにも、採用時の書類確認を徹底しましょう。
参考:e-Gov法令検索「出入国管理及び難民認定法・第73条の2」
日本語能力を対話形式で確認する
外国人を雇用する際は、日本語能力をペーパーテストなどで事前に把握するだけでなく、対話形式でも確認しましょう。対話における日本語能力が低いと、業務遂行や社内コミュニケーションの支障となる可能性があります。
確認をおこなう際は、「日本語能力試験(JLPT)」や「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」の結果を参考にしましょう。必要レベルの意思疎通が可能かチェックできます。
参考:日本語能力試験 JLPT
参考:JFT-Basic 国際交流基金日本語基礎テスト
試験結果が良好でも、実際の会話では不安がある場合もあります。一方で、試験結果がよくなくとも、ニュアンスレベルまで読み取れる人もいます。細かい日本語能力は業務パフォーマンスにも影響します。慎重に見極めましょう。
日本人と同一条件で募集する
外国人労働者を雇用する際も、日本人と同等の条件「同一労働・同一賃金」が義務付けられています。
国籍・人種を理由に、待遇を変えることは違法となる可能性があります。注意しましょう。
ただし、求める能力や経験による賃金差、在留資格にもとづく労働時間の制限は認められています。法令遵守をし、適切な雇用を心がけましょう。
労働条件をしっかり伝える
労働条件を明確に伝え、正しい理解を得ることも重要です。日本語能力に不安がある場合は、フォロー体制を整えて誤解が生じないようにしましょう。
給与・勤務時間・休日・社会保険の有無などは、文化の違いによって誤った認識をもたれることもあります。契約内容は書面でも提示し、可能であれば母国語の労働条件通知書を用意しておくと安心です。長期的な信頼関係が築ける環境を目指しましょう。
日本独自のルールを理解してもらう
雇用に関する日本独自の法律や就業規則があり、外国人労働者にも適用されます。たとえば、雇用開始の前に健康診断の実施が義務付けられています。日本では一般的な制度ですが、外国人にとっては馴染みがなく疑問を抱く人もいるでしょう。
こうしたルールは事前に説明し、理解を促すことが大切です。可能であれば、母国語で記載した就業規則やルールブックを用意しておきます。フォローをおこない、円滑な雇用環境を目指しましょう。
外国人を雇用するメリット
結論、外国人を雇用するメリットは、大きく3つあります。それぞれ詳しく解説します。
- 人手不足を解消できる
- 助成金を活用できる
- スキルの高い人材を確保できる
人手不足を解消できる
日本では少子高齢化の影響で、生産年齢人口(15歳〜64歳)が減少し続けています。1995年には8,716万人だったのに対して、2050年には5,275万人まで減る予測です。
参考:総務省「令和4年 情報通信に関する現状報告の概要(1)生産年齢人口の減少」
人手不足の課題を解決する手段に、外国人労働者の雇用があげられます。「特定技能」在留資格をもつ外国人であれば、一定の技術・知識を備えており即戦力として期待できます。受け入れ環境を整えることで、企業の生産性向上にもつながるでしょう。
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助成金を活用できる
外国人を雇用する場合、一定条件を満たすことで国や自治体の助成金・補助金を活用できます。これらは一部経費でまかなうことも可能です。
【外国人雇用で利用できるおもな助成金】
- 人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)
- 雇用調整助成金
- トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
- キャリアアップ助成金
- 人材開発支援助成金(人材育成支援コース)
たとえば、人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)は、外国人労働者の職場定着にかかる経費の一部が助成されます。「雇用管理制度助成コース」や「人事評価改善等助成コース」なども利用可能です。
スキルの高い人材を確保できる
人手不足の解消だけでなく、高度なスキルをもつ人材確保もできるでしょう。「高度専門職」や「特定技能」をもつ外国人であれば、専門的な知識や技術を活かせます。
また、現地採用を視野に入れることで、多言語対応や異文化理解に優れた人材確保も期待できます。戦略的におこなうことで、海外進出の足がかりにもなるでしょう。
外国人を雇用するデメリット
つづいて、外国人を雇用する際のデメリットを解説します。両側面をふまえて採用活動に活かしましょう。
- 文化や習慣の違いによる問題が起こりうる
- 労務管理や雇用手続きが複雑
- 採用までにコストと手間がかかる
文化・習慣の違いによる問題が起こりうる
文化・習慣の違いによって、トラブルとなる場合があります。宗教・価値観・仕事観の理解がないまま進めると、業務に支障が出る場合もあります。
また、言語の壁があると意思疎通が難しくなり、早期離職につながります。こうした問題を防ぐためにも、外国語が話せる担当者の配置や異文化理解の研修を実施するなどを検討しましょう。
労務管理や雇用手続きが複雑
在留資格の確認・就労ビザの取得など、日本人採用と異なる手続きが必要になります。就労ビザの取得には約1〜3ヶ月を要します。スケジュールを計画的に組みましょう。
また、外国人労働者を常時10人以上雇用する場合は、「雇用管理責任者」の選任が求められます。労務管理には専門的な知識も必要です。あらかじめ手続きを確認し、必要であれば専門家へサポートを依頼しましょう。
採用までにコストと手間がかかる
外国人の雇用は、日本人よりも採用までのコストや手間がかかります。日本在住の外国人を採用する場合は、在留資格の発行費用にくわえて、人材紹介会社への仲介料や日本語教育費用などが発生します。
また、海外在住の人材を採用する場合は、さらに費用がかかります。渡航や現地での手続きにかかる費用、日本での生活準備費用なども必要です。円滑に雇用を進めるためにも、事前に把握しておきましょう。
外国人を雇用する前にやっておくべき準備
外国人を雇用する前におこなう準備が2つあります。どちらも対応が漏れると法令違反につながります。適切に対応しましょう。
- 担当業務と必要な能力を決める
- 在留資格を確認をする
担当する業務と必要な能力を決める
まずは、担当業務と必要スキルを明確にしましょう。外国人労働者は、在留資格によって従事できる職種が決まっています。原則、職種の変更は認められていません。
また、採用後に業務内容を変更することは、不法就労に該当する可能性があります。在留資格の範囲内で適性業務を任せられるように、必要な資格やスキルを事前に整理し、計画的におこないましょう。
在留資格を確認する
次に、在留資格の有無や期限を確認しましょう。在留資格がなかったり、在留期限が切れている状態での就労は法令違反にあたります。在留カードを確認し、在留資格が業務内容と適合するかどうかもチェックしましょう。
外国人の就労は、出入国管理および難民認定法にもとづいて、定められた在留資格の範囲内で認められます。在留資格は29種類あり、「身分・地位にもとづく在留資格(活動制限なし)」・「就労が認められる在留資格(活動制限あり)」・「就労が認められない在留資格」の3つに分類されます。
在留資格をもつ外国人を法令遵守に則って採用できれば、企業リスクを回避しながら安定的な雇用ができます。採用前には専門機関のガイドラインを確認し、必要に応じて専門家へ相談するとよいでしょう。
在留資格については「在留資格ってなに?ビザとの違いや取得方法、29種類まとめて解説!」の記事でも詳しく解説していますので、ぜひ合わせてご覧ください。
外国人雇用の手続き・流れ
外国人雇用の手続き・流れを解説します。手順は以下のとおりです。
- 就労ビザを取得可能か確認する
- 雇用契約書の作成
- 在留資格認定証明書の交付申請
- 就労ビザの申請
- 雇用開始

① 就労ビザを取得可能か確認する
まずは、就労ビザを取得できるか確認しましょう。在留資格によっては就労を認められていなかったり、職種制限がある場合があります。在留カードを確認し、業務内容に適合するかチェックしましょう。
人材紹介エージェントの中には、在留資格の確認をサポートしてもらえる企業もあります。外国人採用の知識がないなど、不安がある場合は活用してもよいでしょう。
不許可事例については「【在留資格】不許可になるケースや対処法などをまとめて解説」の記事で解説していますので、ぜひ合わせてご覧ください。
② 雇用契約書の作成
次に、通常の採用と同様に雇用契約書を作成します。就労ビザの申請時にも必要となります。業務内容・労働条件を明確に記載しておきましょう。
くわえて、母国語に対応した契約書の用意や、労働基準法の重要なポイントを説明するなども有効です。契約内容に関する誤解を防ぎ、適切な雇用体制を構築しましょう。
③ 在留資格認定証明書の交付申請
雇用契約書の締結後は、在留資格を申請します。すでに日本に在住しており、同職種での転職であれば申請不要となるケースもあります。業務内容や在留期限に応じて、変更や更新をおこないましょう。
海外在住の人材を採用する場合は、管轄の出入国在留管理局へ「在留資格認定証明書」の交付申請が必要です。手続きには1〜3ヶ月かかるため、スケジュールを考慮しましょう。交付完了後は、在留資格認定証明書を内定者へ送付し、就労ビザの申請を進めます。
④ 就労ビザの申請
在留資格認定証明書の交付後は、内定者本人で現地の日本大使館、または領事館で就労ビザの申請をします。入国から業務開始を見据えて、余裕をもっておくとよいでしょう。
審査期間は国によって異なり、最短5日〜1ヶ月程度が目安です。一部の国では本人で直接申請できず、代理申請機関を通す必要があります。事前に大使館のホームページを確認しましょう。
⑤ 雇用開始
就労ビザの取得が完了すると、内定者は来日し雇用が正式にスタートします。円滑に業務を開始できるように、受け入れ体制を整えましょう。たとえば、既存社員への周知や研修の実施、日本の職場文化やルールへの理解を深める機会を設けるのもひとつです。
フォロー体制の構築にあわせて、雇用保険の加入手続きや、外国人雇用状況の届出も忘れずにおこないましょう。
外国人を雇用する際のポイント
外国人を雇用する際のポイントを5つ解説します。要点は以下のとおりです。
- 就業規則を整備する
- 教育環境を整える
- サポート体制を構築する
- ハラスメントや差別を防止する
- 社内に外国人雇用への理解を促す

就業規則を整備する
文化や労働慣習の違いを考慮し、必要に応じて規則を見直すことが大切です。外国人の雇用は、日本人と同じ条件である必要があります。
母国語で就業規則を作成する義務はありませんが、理解を深めるためにも翻訳版を用意しておきましょう。明確なルールを提示することで、労使間のトラブルを防げます。
教育環境を整える
業務習得のサポートだけでなく、日本語教育の機会もつくりましょう。一定の日本語能力がある人材でも、細かなニュアンスを理解するのは困難な場合があります。教育担当者の配置や、日本語研修の機会を設けてもよいでしょう。
継続的に学習できる環境を構築することで、職場コミュニケーションの活発化や定着率アップにつながります。
日本語能力については「外国人採用基準の日本語能力試験(JLPT)とは? N1・N2のレベルは必須?」の記事もぜひ合わせてご覧ください。
サポート体制を構築する
生活面におけるサポート体制を築くことも重要です。たとえば、申請手続きの案内や日本の文化・習慣を学ぶ機会を設けてもよいでしょう。外国人雇用がはじめての場合は、相談窓口の設置や社内メンター制度を導入するのもひとつです。
外国人労働者・既存社員の双方が安心して働ける環境をつくることが、長期定着や満足度につながります。
ハラスメントや差別を防止する
容姿や国籍などを理由にハラスメントをおこなうなど、差別行為を防止することも重要です。
令和5年度「在留外国人に対する基礎調査 」によると、在留外国人の43.7%が人種差別・機会平等・個人尊重に関する意見や要望を唱えています。
ハラスメント行為は外国人労働者の定着を妨げるだけでなく、職場環境の悪化につながります。防止対策には、研修実施やサポート窓口の設置が有効です。社内意識の向上をはかり、安心して働ける職場環境を目指しましょう。
社内にも外国人雇用への理解を促す
社内へも外国人雇用の理解を促すことが大切です。文化や価値観の理解が不足していると、誤解やトラブルをまねきます。事前にガイダンスや研修を実施しましょう。
厚生労働省の資料を活用するなど、円滑な職務遂行や職場定着に向けた取り組みをおこなうことも有効です。相互理解を深め、外国人労働者が働きやすい職場をつくりましょう。
在留資格を確認し外国人へ配慮した雇用環境に
外国人を雇用する際は、業務内容と在留資格を確認することが重要です。法律違反をしないように配慮しながら、採用活動・雇用環境を整えましょう。
また、入社後スムーズに職場へ馴染めるように、労働条件や業務内容を丁寧に説明することも大切です。外国人労働者・従業員の双方が満足できる職場環境を目指しましょう。
