技能実習生は、帰国後に技能を活かせている?ベトナム人実習生たちの帰国後における就職状況について

この記事では、ベトナム人技能実習生の帰国後の状況について、2022年5月に公表されたJICAさんの調査結果を元に、外国人材業界における現場の第一線で活動している弊社代表中村が解説しています。

なお、本記事は以下のYouTubeの内容を一部編集した上で公開しております。ぜひ以下のYouTube動画もあわせてご覧ください。

出演者プロフィール
中村 大介 / 株式会社ジンザイベース
1985年兵庫県神戸市生まれ。2008年に大学卒業後、フランチャイズ支援および経営コンサルティングを行う一部上場企業に入社し、事業開発に従事。2015年、スタートアップを共同創業。取締役として外国人労働者の求人サービスの立上げを主導。国内在住の外国人材の就職課題を解決すべく2021年に株式会社ジンザイベースを創業。
和須津 亮 / 株式会社ジンザイベース
1994年千葉県市原市生まれ。2018年に大学卒業後、外国人採用支援を展開するスタートアップに新卒入社。特定技能、技能実習、技術・人文 知識・国際業務の人材紹介及び累計100名を超える特定技能・技能実習生の支援業務に携わる。2022年3月株式会社ジンザイベースヘ入社し、特定技能外国人の募集・集客及びマーケティング業務全般を担当している。

JICAさんの調査レポートの概要は?

和須津:今回は、時事ネタっていうとちょっと古いデータになってしまうのですが、2022年5月にJICAさんからある技能実習生に関する調査結果が公表されておりましたのでそちらを取り上げさせていただいき中村さんに解説していただこうと思います。

本調査レポートは、ベトナムの社会経済発展の基盤としての人材育成を支援し、日越の戦略的協力関係を推進するため、以下の4点を目標に実施されているそうです。

  1. ベトナム産業人材育成分野の国家戦略・開発計画の現状確認
  2. 企業・大学・職業訓練機関等のニーズ把握
  3. 中長期の支援ニーズと支援実施上の課題の抽出
  4. JICAによる協力の方向性

そのため、レポートをみていただけるとわかるのですが、ベトナム国全体としての人材育成の課題や日越政府間協力における課題、JICAの協力の方向性など網羅的に記述がなされています。

その中に、特にP255「5.2.2 帰国技能実習生の状況」という項目があり、こちらの内容が今回取り上げさせていただくテーマとなっています。

技能実習生の帰国後の就職状況・就職した業種は?

和須津:まず、帰国した技能実習生達に就職状況に関するアンケートを実施しています。

帰国した技能実習生の就職状況
出典:JICA「ベトナム国産業人材育成分野における情報収集・確認調査(最終報告書・2022年5月)

「帰国後、実際に就労しましたか?」という質問に対し、「就労者した」と回答した割合が26.7%となっています。中国、タイ、フィリピンだと50%超えていますが、ベトナムだけ突出して低いという状況が伺えます。

内訳を見てみると、「求職中」の回答は22.7%と他国と比べて大差ありませんが、「その他」が48%で高くなっています。JICAさんによると、「技能実習の継続準備」、「日本への再就労」、「進学の準備」をしていると考えられるそうです。

就労した帰国技能実習生の仕事の内訳
出典:JICA「ベトナム国産業人材育成分野における情報収集・確認調査(最終報告書・2022年5月)

また、日本で実習していた職種と同じ分野で再就職する割合も他国と比べると低い結果となっています。

中村:そもそも日本で従事していた仕事が母国にあるかどうかはわかんないですしね。元技能実習生で、僕の知ってる人達は、全員送り出し機関で働いていますね。技能実習の経験があるからってことで。送り出し機関以外で、どこかの企業で社員として働いているって話を聞いたことが、正直ないですね。

和須津:まさしく仰っていただいた通りですね。技能実習では、製造業や介護など、ブルーワーク系の業種が中心ですが、帰国後に就職した人の中で、どんな業種に就いてるかというと、営業や送り出し機関、語学教師が圧倒的に多くなっています。もしくは、自分でビジネスを始めちゃうなど。

中村:なるほど。でも、結局日本に来てくるために日本語を勉強し、来日後も継続したからこそ活用できるキャリアアップってことですよね。業務内容は全く無意味だったとしても、来日したおかげで語学力をキャリアに生かすことができてることなので、それはそれで寄与できてる制度であるかなと。

和須津:確かにそうですね。ただ、技能実習制度の本来の目的、「技能の移転」っていう観点で見ると「ちょっとどうなんだろう?」というような結果になってはいますけどね。

現地の日系企業は帰国した技能実習生を採用している?

日系企業の帰国技能実習生の採用状況
出典:JICA「ベトナム国産業人材育成分野における情報収集・確認調査(最終報告書・2022年5月)

和須津:一方で、現地の日系企業にもアンケートを実施しています。「積極的に帰国した実習生を採用しますか?」という質問に対し、正直あまりないと。実際に雇用している会社に関しても43%という結果になっており、なかなか採用もしづらい実情があるみたいですね。

理由としては、まず第一に「給料の高い仕事を希望している」点が挙げられています。日本で日本基準の給料をもらっていた中で、ベトナムに帰るとどうしても賃金差があるので、現地水準だと低くなってしまう。ただ、その中で高い給料を獲得できる職種となってくると、マネージャーなどの「管理職」や「ITサービス系」などの業態が多くなってきます。

一方で、実習生たちは、日本での就業期間中は手作業や重労働が中心の業務に従事しており、ITスキルやマネジメントの経験がほとんどありません。そこでギャップが出てきてしまっているという実情があるみたいですね。

実際に、帰国した元技能実習生達は就職しても初心者としか扱われず、給与も期待値より低くなってしまうため、結果として早期離職や日本へ戻ることを選択してしまうケースがあるみたいです。

中村:技能実習で従事できる職種は、日本語以外の面で母国に帰国した際にキャリアアップができない職種なんですね。本人達の希望がどれぐらいの水準かという点は気になりますけどね。

日系企業にとっての帰国技能実習生活用の課題・問題点
出典:JICA「ベトナム国産業人材育成分野における情報収集・確認調査(最終報告書・2022年5月)

そもそも、元技能実習生はどうやって仕事を見つけている?

和須津:あともう一つ、「元技能実習生達が就職するためのチャネルがそもそも整備されていない」ため、仕事がなかなか見つけられないという実態もあるみたいですね。

中村:なるほど。確かに、何かそういう大きな人材系の会社があるって話は知らないですし、多分送り出し機関はあったとしても、結構SNS経由で求人案内するのが多いと思うので、あんまり相対的に見れない状況があるのかなと感じますね。

和須津:結局、既に働いている従業員からのリファラルや知り合いに紹介されてっていう形で入社する方もいる一方で、ほとんどの方はどうすれば情報を得られるのかわからないという状況みたいですね。

中村:ここはビジネスチャンスがありますね。

元技能実習生を現地の日系企業が採用しづらい理由は?

和須津:元技能実習生の方は、結構日本語能力を武器に就職活動される方が多いみたいなんですが、実際に現地の日系企業で働く時には、仕事で日本語を使う機会はそもそもないみたいですね。

英語かベトナム語を日本人であったとしても使っていると。そもそも日本語でのコミュニケーションを業務中にする機会がないので、そこまで日本語能力が武器にならない状況がありそうです。

中村:まあ確かにそうですよね。日系で海外へ進出したときに、現地で日本語を使うかといったら使わないですからね。

和須津:なので、PCスキルやマネジメントとか、実務レベルのソフトスキルが求められているけれども、帰国した元技能実習生たちは日本でずっと現場の単純作業しかやっていなかったので、なかなか採用しづらいという実情があるみたいです。

中村:結局、技能実習で来る方々って、中卒か高卒の方が中心ですもんね。

今の話だと、現地の日系企業で求められるレベル、ある程度の報酬を対価としてもらえるレベルとなると、大卒で英語もペラペラのエンジニア系とか、プロジェクトマネジメントできますとかっていう人達になってくる。そうすると、多少日本語ができて、その分野とか、商品のことを作れる技術力ある人間だったとしても、現場の1ワーカーで日本語使えるだけで特に意味もないと言う感じになっちゃうんですかね。

結局、また日本へ戻ろうとする方が多い?

和須津:そうなんですよね。そこで大きなミスマッチが発生した結果、送り出し機関の営業であったり、日本語教師、または留学などの別のビザで、再度日本に行くっていう選択を取る方がほとんどらしいですね。

中村:そもそもなんですけど、彼らは全般的に母国に戻ってきてから、その職種でキャリアアップしようっていう考えは持ってないんじゃないですかね。だって結局、元々その仕事をやってましたっていう体で申請をするじゃないですか。

あれ嘘じゃないすか。送り出し機関が捏造をしてるわけですよね、元々の職歴を。日本に行って働く職種と同じ職種での経験があるから、技能実習制度を活用して日本で技術を身につけるんですよみたいな形にしてますけど、元の経歴も嘘が八百。

とにかく出稼ぎで日本にきました、ある程度技術力身につけたとしても、元々の経歴が嘘なわけだから、母国に戻ってから日本での経験をまた生かそうという考えはなくて、次はまたどうやって海外に行くかとか、外国で稼ぐかっていう思考の人が大半なんじゃないかなと。

和須津:たしかに、在籍証明書みたいなものを金出せば買えると聞いたことありますね。

技能実習制度の改正で改善されていく?

中村:だから、日本国政府の思惑と、外国政府の思惑及びその思惑が現地企業まで全くもって浸透ができてないですよね。というのも、その思惑自体が現場のニーズとはかけ離れたものであったんですよっていう風になっちゃいますよね。

やっぱ無理があったと思うんですよ。技能実習制度の制度趣旨っていうのは。なのでもっとお互いにとってメリットがある形でやればいいのに、「研修」とか「実習」とかっていう形にしているところも何かちょっとよくわかんないですね。

一時的に手伝ってもらって、終わったらすぐ帰れってことをするためにそういう形式をとっているのでしょうけど。

和須津:確かに転職もできないですし、制度趣旨とその実態が全然異なっていますし。だからこそ、今制度改正の議論が積極的になされてるんじゃないですかね。

中村:改正じゃなくて、その制度自体そのものをなくした方がいいんじゃないですかね。

何か、どこをどう変えれば改善されるかっていう道筋が全く見えないと思うんすよ。もう代替できる制度は特定技能とかあるわけなんで、いらないんじゃないのって。単純にそれ今必要ですかって話ですね。

必要ってなったときに、誰のために必要かってなると、まず現地の送り出し機関。彼らは技能実習制度でバブリーなんで。もう一つは日本の全く採用について努力をしない、かつ地方の不人気職種の会社。

そのために、どこまでそこを持っていくかによって変わってくると思うんですけど、ただその護送船団方式が企業の努力を阻害していくと思うんですよね。

編集後記

今回は、JICAさんの調査レポートを元に、帰国した技能実習生の就職状況をテーマに、登録支援機関の経営者に意見をお伺いしてきました。技能移転の制度趣旨が形骸化しているとよく巷では言われていましたが、改めて定量的な調査結果を突きつけられる形となっておりました。現在進んでいる技能実習制度の改正議論の行方も気になるところで、今後の動きに注目が必須です。なお、YouTubeでもご覧いただけますので、気になる方はぜひこちらからご覧ください。

また、弊社は登録支援機関として特定技能外国人のご紹介・支援に強みを持っています。技能実習や特定技能外国人の雇用を検討しているが、もう少し詳しく話を聞いてみたい、具体的に募集をしてみたいという方いらっしゃいましたら、ぜひこちらの問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

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監修者
編集
中村 大介
1985年兵庫県神戸市生まれ。2008年に近畿大学卒業後、フランチャイズ支援および経営コンサルティングを行う一部上場企業に入社し、新規事業開発に従事。2015年、スタートアップを共同創業。取締役として外国人労働者の求人サービスを複数立上げやシステム開発を主導。海外の学校や送り出し機関との太いパイプを活用し、ベトナム、インドネシア、タイ、ミャンマー、バングラデシュの人材、累計3000名以上の採用に携わり99.5%の達成率にて、クライアント企業の事業計画の推進に成功。このノウハウを活かし、パフォーマンスを倍加させた新しいシステムを活用し、国内在住の外国人材の就職の課題を解決すべく2021年に株式会社ジンザイベースを創業。趣味はキャンプとゴルフ。
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