この記事は、特定技能外国人の雇用をご検討されている担当者様に向けて、特定技能雇用契約の内容を詳しく解説しています。注意点や締結時に必要となるその他の書類などもご紹介していますので、是非最後までご確認ください。
なお、YouTubeでも解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。
特定技能制度の基本情報
まずは特定技能とは何かを整理しておきましょう。
特定技能とは?
「特定技能」とは2019年に設けられた在留資格で、人材不足が過酷な特定の産業分野において、単純労働を含む職種でも外国人労働者の就労を認めた制度です。
受け入れ可能な分野としては、以下の12分野が該当してきます。それぞれに分野別の解説記事のURLが貼り付けてありますので、ぜひご覧ください。
①建設
②造船・舶用工業
③自動車整備
④航空
⑤宿泊
⑥農業
⑦漁業
⑧飲食料品製造業
⑨外食業
⑩素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
⑪介護
⑫ビルクリーニング
特定技能になるには、一定の日本語能力を有し、分野別の技能試験をクリアした外国人でなければ、在留資格の許可が下りなくなっています。そのため、受け入れ企業としては入社後すぐに活躍できる「即戦力人材」としての雇用が期待できる制度となっています。
その他、特定技能制度の基本的な概要については、「特定技能とは?制度の概要から採用の流れまで基本を徹底解説」を併せてご覧ください。
義務的支援ってなに?
特定技能制度で特徴的なポイントは、入管法で定められた「義務的支援」を受け入れた特定技能外国人へ実施しなければならないという点です。
この義務的支援には以下の10の項目が定められており、選任された支援責任者・支援担当者のもとで適切に実施される必要があります。
ただし、支援責任者・支援担当者としての要件が以下のように定められており、この条件に合致しなければ、適切な支援を実施する体制がないとみなされてしまいます。
- 過去2年間に外国人の受け入れ実績のある企業の従業員
- 過去2年間に生活支援の担当業務に従事した経験のある従業員
こういった場合、「登録支援機関」という第三者機関に委託することで、基準を満たしたとみなされます。義務的支援の実施という工数削減にもつながるので、特定技能外国人の雇用をする際は、ぜひ登録支援機関の活用も検討してみてください。
登録支援機関については、「【特定技能制度における支援とは】登録支援機関や支援にかかる費用まで解説」も併せてご覧ください。
特定技能外国人を雇用する流れは?
特定技能外国人の受け入れの流れについては、基本的に以下のようになります。 国外から呼び寄せるパターンと国内での転職希望者を雇用するパターンで若干流れが変わってくる点はご注意ください。
ただ、いずれの場合においても、本記事のテーマである特定技能雇用契約書の締結は必須であり、申請時に最も詳しく審査される書類である点は変わりありません。
また、契約書の内容次第では、特定技能外国人の受け入れ後にトラブルにも繋がりかねませんので、しっかりと把握しておきましょう。
特定技能制度における雇用契約
特定技能において外国人労働者を雇用する際に締結する契約という点においては、日本人従業員を雇用する時と相違はありません。
ただし、特定技能雇用契約の内容は、「特定技能雇用契約及び特定技能外国人支援計画の基準などを定める省令」の第一条によって、明確に定められており、それに基づき作成する必要があります。
さらに、内定者の理解できる言語を併記した上で作成する必要があるため、例えばベトナム人の特定技能外国人を雇用する際には、日本語とベトナム語がセットで表記された特定技能雇用契約書・雇用条件書を作成します。
参考様式が出入国在留管理庁のHP(在留資格「特定技能」に関する参考様式(新様式))に公表されており、各国語対応のものもあるため、ダウンロードした上でご活用いただけます。(ただし、細かい各社ごとに異なる項目に関しては、別途翻訳を入れる必要がある点は、ご留意ください。)
特定技能雇用契約書は、在留資格申請時に出入国在留管理庁へ写しを提出する必要があり、内容に不備がある場合は在留許可が下りないケースもあるので注意しましょう。
特定技能雇用契約書・雇用条件書の内容
特定技能での雇用契約書は、入管の参考様式をみていただくと、「特定技能雇用契約書」と「雇用条件書(別紙含む)」の2つのセットになっていることがお分かりいただけると思います。
「特定技能雇用契約書」は、受け入れ予定の特定技能外国人と受け入れ企業名を入れるだけで、その他の部分はほぼ入管の参考様式をいじる必要はありません。記載項目を記入したら署名・押印をしましょう。
「雇用条件書(別紙含む)」に関しては、各社ごとに記載内容が細かく変わってきます。就業場所や労働時間、報酬金額など細かく明示する必要がありますので、それぞれ記載ポイントを解説していきます。(出入国在留管理庁HP「外国人受け入れに関する運用要領 第五章 第一節」を参考にしています。)
従事させる業務内容
大前提として、特定技能で認められている各12の産業分野に該当する業務に従事させることはもちろんのこと、相当程度の知識若しくは経験を必要とする技能を要する業務であることが求められています。
そのため、該当する産業分野と関係のない業務に従事させることや、一つの単純作業のみに長期間従事させることはできません。
各分野における業務内容やそれに関する注意事項などについては、出入国在留管理庁のサイトから参照することができるので、確認してみてください。
所定労働時間
所定労働時間とは雇用契約や就業規則で定められた労働時間であり、休憩時間は含めません。
特定技能外国人の所定労働時間は、受け入れ企業で働く通常の日本人労働者の所定労働時間と同等であることが求められます。
ここでいう通常の労働者とは、アルバイトやパートタイム労働者ではなく、フルタイムで雇用される労働者を指しますので、その点は理解しておきましょう。
ちなみに特定技能制度におけるフルタイムとは、以下の2点を満たしたものを指します。
- 労働日数が週5日以上かつ年間217日以上
- 週労働時間が30時間以上
また、当然ですが、複数の企業が同一の特定技能外国人を雇用することはできません。特定技能外国人はアルバイトや副業は基本的には認められていないという点は留意しておきましょう。
報酬
特定技能外国人の報酬額は、同等の業務に従事する日本人労働者の報酬額と同等以上であることが求められます。
つまり、特定技能外国人の報酬額は、外国人であるという理由で不当に低くなってはならないということです。
同程度の技能を有する日本人労働者がいる場合には、当該外国人に対し、職務内容や責任範囲などが当該日本人と同等であると説明した上で、報酬額も同等以上であることを説明しなければなりません。
当然ですが、日本人労働者に支給している賞与や手当てに関しても、同様に特定技能外国人に支給する必要があります。
また報酬以外にも教育訓練の実施や福利厚生施設の利用などの待遇について、外国人であることを理由に差別的な取り扱いをしないことも求められるのです。
有給休暇
特定技能外国人にも当然有給は付与されますので、本人からの申し出があった場合は日本人同様に対応する必要があります。
特に、一時帰国の申し出があった場合、事業の適正な運営を妨げるなど業務上やむを得ない事情がある場合を除いて、有給休暇を取得できるよう配慮しなければなりません。
もし当該外国人が有給休暇を全て取得済みであっても、一時帰国の希望があれば、追加的な有給休暇や無給休暇などを付与するといった配慮も求められます。
そのため特定技能外国人から一時帰国の申し出があった場合、必要な有給・無給休暇を取得させる旨を特定技能雇用契約で定める必要があるのです。
外国人の一時帰国についての注意点等は「外国人の一時帰国に手続きは必要?(再入国許可・みなし再入国許可)」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
派遣で受け入れる場合
特定技能外国人を労働者派遣法などに基づき、派遣労働者として雇用する場合に必要な項目となります。
その場合、特定技能外国人の派遣先や派遣期間も特定技能雇用契約に含める必要があります。
ただし2023年1月現在においては、特定技能外国人を派遣形態で雇用できる分野は「農業分野」及び「漁業分野」のみです。
それ以外の分野は派遣形態での雇用は認められていないので、その点は留意しておきましょう。詳しくは「【特定技能って派遣できる?】受け入れ方法や要件、注意点などを解説」の記事を参照ください。
特定技能雇用契約書・雇用条件書の参考様式
ここまで解説してきた「特定技能雇用契約書」と「雇用条件書」は、出入国在留管理庁HPに参考様式として公表されており、いつでもダウンロードすることが可能です。
特に、英語及びベトナム語など、10ヶ国語に翻訳されておりますので、受け入れる予定の特定技能外国人の母国語のものをダウンロードし、活用するようにしましょう。※ 出入国在留管理庁:在留資格「特定技能」に関する参考様式(下にスクロールすると「英語及び9か国語による様式について」という項目が出てきます。)
必要事項を記載したら、2部ずつ印刷し、以下の該当箇所に押印・署名対応を実施し、1部は特定技能外国人へ、1部は企業にて保管する形になります。
- 「特定技能雇用契約書」:企業印と特定技能外国人の署名
- 「雇用条件書」:1ページ目に企業印、5ページ目に特定技能外国人の署名
出入国在留管理庁へは写しを提出し、記載の雇用条件に問題がないかを審査されることとなります。修正事項が見受けられた場合は、入管から修正依頼が郵送でくるので、都度期日までに対応していきましょう。
特定技能外国人と雇用契約を締結する際に気をつけるポイントは?
ここまで特定技能雇用契約の内容を見てきましたが、続いてこの特定技能雇用契約を締結する際に注意すべき点についてお話しておきましょう。
母国語で説明し、しっかりと理解してもらう
一つ目の注意点は、いくら日本語が上手だったとしても、母国語でしっかりと条件書の内容を伝えるということです。
特定技能制度で来日してくる外国人労働者は基本的に一定の日本語能力を有していますが、それでも難しい漢字や言いまわしなどを使ってしまうと、理解できない恐れがあります。
例え日本語で懇切丁寧に説明したと思っても、相手が理解できていなかった場合、入社後に「こんな雇用条件の説明は受けていない」と不信感につながりすぐに転職してしまうでしょう。
そのため、雇用条件書に母国語を併記するのはもちろん、口頭でもしっかりと母国語で説明しておいた方が、後々のトラブルを防げると言えるでしょう。
よくトラブルになりがちな項目を重点的に説明しておく
また、トラブルになりやすい項目として、以下のようなものが挙げられますので、特に外国人雇用が初めての企業様は重点的に説明しておくと良いでしょう。
有給休暇、一時帰国
一般的な日本人感覚だと、有給に関してはそこまで細かく気にされる方は正直少ないのではないでしょうか?
しかし、外国人労働者にとっては、有給がいかにスムーズに取得できるかと言う点は重要度が高くなってきます。
中でも、中華圏の出身者は年末年始が1月〜2月とずれ込むため(旧正月)、この時期に1-2週間の一時帰国を希望される方がいます。こういった文化的な習慣の違いがあるため、事前に長期で帰国する予定や考えがあるのか、その場合に自社だと最長何日程度であれば帰国の許可が出せるのかなどを事前に認識すり合わせを行っておいた方が良いでしょう。
ここのすり合わせがないと、旧正月期間に1ヶ月の長期休暇を取得したいなどという申し出を受け、そこの調整に外国人・企業双方でストレスを抱えるケースが意外とあったりします。
また、有給の取得を申し出るタイミングについてもしっかりと伝えておきましょう。
よくあるケースが、有給取得予定日の3日〜1日前という直前での申し出があったりします。稀に、有給を申し出たら必ず取得できると勘違いをなされている方もいらっしゃるので、時期変更権が会社側にも認められている点などを踏まえて、最低何日前までに有給の申し出をしてほしいなどという大枠の方針は伝えておいた方が良いでしょう。
就業場所
飲食店事業者や複数の事業所を構えている介護グループなどでは、従業員の転勤が発生するケースも多いのではないでしょうか。
日本人であれば、会社からの事例として転勤を明示された場合は素直に応じるのが一般的かと思います。
ただし、多くの特定技能外国人の場合、転勤に対するイメージはネガティブである場合が大半を占めています。
やはり、引っ越しに伴う新しい住居の確保に外国人だと時間がかかる点と、退去・転入・荷物の運搬に費用が発生する点から、敬遠される方が多いのが実態です。
そのため、会社からの転勤が発生する可能性が0ではない場合、必ず事前に説明しておきましょう。また、可能であれば、転勤先の住居確保を手伝う・転勤時の費用を一部会社が負担するなどの対応をご検討いただくのも良いでしょう。
昇給・賞与の有無
最後に、一番問題になりやすいのが、やはり昇給・賞与の部分です。
会社経営上、従業員の昇給や賞与は従業員個々人のパフォーマンス評価が重要であり、評価制度は各社で異なる点はもちろん、前提として業績次第によってはそもそも賞与原資を確保できないというのは当たり前の話です。
ただし、日本企業は「半年〜1年ごとに定期昇給する」「頑張ったら賞与がもらえる」のが当たり前という感覚の方が一定数いらっしゃいます。
さらに、友人同士で給与額や賞与の有無を具体的にどのくらいもらえたのかを共有する方が多く、「友人は入社6ヶ月で〇〇円昇給したのに、どうして自分は昇給しないのですか?」と何の疑問もなく質問してくる方もいます。
そのため、独自の評価制度を運用されている場合は、昇給基準を明確に伝えるとともに、業績に応じて賞与の有無に関しては変動がある点も理解してもらうことが大切です。
その他、特定技能雇用契約に関する注意事項は?
特定技能外国人との締結時以外にも、特定技能雇用契約について何点か押さえておくべきポイントがあるので、最後にまとめて整理しておきましょう。
分野別の基準に適合すること
特定技能制度では、分野別に独自の基準が設けられているケースがあります。
特に、建設業では以下のような基準が設けられていたりしますので、分野別の基準を事前に確認した上で雇用条件書を作成するようにしましょう。
- 報酬形態は月給制のみ(時給・日給だとNG)
- 元技能実習生を特定技能として雇用する場合、技能実習時以上の報酬額にする
- 派遣形態での受け入れがNG
事前ガイダンスの実施
面接や契約書締結時に面談等を通じて雇用条件の案内をすると思いますが、再度特定技能1号の在留資格申請を実施する前に「事前ガイダンス」を実施し、ここで改めて雇用条件書の内容を伝える必要があります。
「事前ガイダンス」は、義務的支援の一つとなっており、実施を怠っていることが発覚すると受け入れ停止処分になる可能性があるので、しっかりと実施するようにしましょう。
支援計画の作成など、雇用契約書以外の申請書類作成
義務的支援の項目で解説した通り、特定技能1号の外国人を受け入れる際、外国人が安定して働くことができるように、業務上は勿論のこと、日常生活面での支援も行う必要があります。
在留資格申請の際には、特定技能雇用契約書だけではなく、具体的にどのような支援を行うのかを支援計画書として提示する必要があるため、雇用契約締結後に支援計画を策定することになります。
こちらの支援計画の策定に関しては、先にもあげた「登録支援機関」を活用することで、作成サポートを受けることが可能ですが、作成に時間がかかるケースもありますので、余裕を持って諸々の書類作成対応を実施するようにしましょう。
定期報告での届出
特定技能外国人は、入社後も四半期ごとに「定期面談」を実施することが義務付けられています。面談結果については、報告書に取りまとめて入管に提出することになります。
この報告書を提出する際に、添付書類として、対象期間中における特定技能外国人の賃金台帳と比較対象となる日本人社員の賃金台帳を入管にあわせて提出します。
こういった書類を閲覧することで、特定技能外国人に雇用条件書通りに報酬が支払われているか、日本人社員と差別的な取り扱いがなされていないかをしっかりと確認されるという点はご留意ください。なお、提出書類としては、以下の入管HPをご覧ください。
変更事項が発生した際の対応(随時届出)
また、一度入管に提出した雇用条件の内容に変更事項が発生したり、新たに特定技能外国人と雇用契約を締結・契約が終了する場合は都度「随時届出」という届出を実施しなければなりません。
具体例としては、昇給や勤務先、住宅手当などを新たに新設する場合などが該当してきます。
こういった場合、変更事項発生日より14日以内に管轄の出入国在留管理局へ「随時届出」を実施する必要があります。
届出書の内容や様式については、出入国在留管理庁のこちらのページを参照してください。
特定技能雇用契約書の保管義務
また、 特定技能外国人の受け入れ企業は、仮に特定技能外国人が退職等により契約が終了したとしても、契約終了日から1年以上は契約書を保管しておく必要があります。
厳密には、「活動の内容に係る文書(特定技能雇用契約書や特定技能外国人の名簿など)」と「1号特定技能外国人支援の状況に係る文書(支援実施体制に関する管理簿や支援の委託契約に関する管理簿など)」の複数の文書を保管しておく義務があります。
仮に登録支援機関に支援を委託していたとしても、受け入れ企業として上記書類を作成し、保管しておく必要があるので、特定技能外国人が退職したからといってすぐに特定技能雇用契約書等を処分してしまうのは控えましょう。
まとめ
今回は特定技能雇用契約の内容や締結時の注意点を中心にお話してきましたが、いかがでしたか。
契約内容に関しては、後々トラブルに発展してしまうケースも多いため、しっかりと作り込むと同時に特定技能外国人本人へ説明をしておくようにしましょう。
また、特定技能外国人の雇用に関して疑問点や相談したいことがございましたら、ぜひお気軽にこちらのフォームからお問い合わせをお願いいたします。