【宿泊業界】ホテル・宿泊施設の人手不足は自業自得?原因と対策を統計データを元に解説します!

新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類感染症となり、日本国内では人流が一気に活発化したと同時に、日本人だけでなく外国人観光客の数も新型コロナ前以上に急増しており、追い風にも思えるホテルや旅館などの宿泊業界。しかしながら、宿泊施設の現場では従業員不足が深刻化しているのはご存知でしょうか?

本記事では、ホテルや旅館の宿泊業界の人材不足の原因や対策を様々なデータを交えながら細かく解説していきます。

深刻化するホテル・宿泊業界の人手不足の現状

まずはじめに、ホテル・宿泊業界の人手不足の現状を確認しましょう。

統計データから見るホテル・旅館業の実態

まず、統計データなどでホテル・旅館の人不足の実態を以下に見ていきます。

有効求人倍率は6.15倍?!

少し前の資料にはなりますが、観光庁が公表している「観光を取り巻く 現状及び課題等について(令和3年11月25日)」によると、新型コロナ前の2017年の宿泊業分野における有効求人倍率は6.15倍と極めて高い水準となっていました。

観光を取り巻く 現状及び課題等について
出典:観光庁|観光を取り巻く 現状及び課題等について(令和3年11月25日)

正社員と非正規雇用で人材不足状況は異なる?

帝国データバンクが公表している「人手不足に対する企業の動向調査(2025年1月)」によると、正社員が不足していると感じているホテル・旅館業は2023年1月では全体の77.8%と非常に高く、少し緩和がされつつあるものの直近2025年1月でも60.2%のホテル・旅館が正社員が不足していると回答しています。同様に非正社員の不足で見ても、50%のホテル・旅館が不足していると考えていることが分かります。

非正規雇用が多いとされているホテル・旅館ですが、コロナ禍で落ち込んだ非正社員の数が足元で回復していることや、DX化の浸透、スポットワークの普及などが進んできていると考えられます。

離職率はどうなっている?

次に離職率ですが、厚生労働省が公表している「令和5年雇用動向調査結果の概況」によると、ホテルを含む宿泊業、飲食サービス業の離職者数は1422万7千人と産業別で見ると最も多く、離職率は26.6%で全産業の15.4%を大幅に超える結果となっています。

令和5年雇用動向調査結果の概況
出典:厚生労働省|令和5年雇用動向調査結果の概況

コロナ禍以降の環境が大きく変わった?

上記のようなホテル・旅館での人手不足は、新型コロナウイルス以降の環境変化も要因として考えられています。

ここではどのような環境変化があったのかを見ていきましょう。

インバウンド需要の急激な回復

訪日外国人、いわゆるインバウンド需要の急激な回復は大きな環境変化でしょう。コロナ禍からの規制解除と円安などの影響もあり、インバウンド需要は新型コロナ前よりも伸びており、2025年1月の訪日外国人数は3,781,200人と単月過去最高を更新、年間でも2024年は2017年の3188万人を大幅に超え、3687万人にものぼっています。

訪日外国人数_グラフ
出典:観光庁|訪日外国人旅行者数・出国日本人数

新規ホテル開業が続いている

2021年に開催された東京オリンピックにあわせ、コロナ禍であっても新規のホテル建設が進んだことなどでホテル開業は増えています。

また、世界最大級の不動産サービス会社であるJLLによると、2023年第1~第3四半期の国内不動産投資額のうち、ホテルへの投資は15%を占め、全体の投資額に占める構成比はコロナ前よりも大きくなっているのです。

ホテル比率_グラフ
出典:大和不動産鑑定株式会社|最近の国内ホテル市況

ホテル・旅館で働いていた人材が他業界へ流出

他業界への人材流出もホテルの人手不足の要因です。

帝国データバンクによると、コロナ前の2019年度末と22年度末の各社の従業員数についての調査によると、ホテル・旅館などの宿泊業を営む企業の6割以上で19年度末から22年度末にかけて従業員数が減少したとの報告があります。これは、コロナ禍の業績悪化などを理由にした人員削減の影響が大きく、このうち正社員が53.1%、非正社員で55.7%がそれぞれコロナ前から減少したままとなっている。

従業員数_グラフ
出典:帝国データバンク|企業の「正社員・アルバイト」従業員数動向調査

もともと非正社員が多いホテルでは、3年以上続いたコロナ禍での営業規制や休業等で解雇等を余儀なくされた非正社員が他業種へ流出したままで、一旦削減した労働力をコロナ前水準に回復させることは非常に難しくなっているのが現状です。

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ホテル・宿泊施設特有の人手不足の原因

ここでは、ホテル・宿泊施設特有の人手不足の原因について見ていきましょう。

労働環境の課題

まずは、ホテル・宿泊業界の労働環境の課題があげられます。さらに、労働環境のなかでも以下の3つが大きな原因となっています。

全産業平均との給与格差と離職率の高さ

厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況」によると、宿泊業・飲食サービス業の平均賃金は全産業のなかで最も低く月収25.9万円で、全体平均の31.8万よりも大きく下回っています。

また、離職率についても厚生労働省の「令和5年 雇用動向調査結果の概要」によると、全産業平均が15.4%に対して、宿泊業・飲食サービス業では26.6%と高くなっています。この離職率の高さは、業界の給与格差も大きな要因でしょう。

人手確保のため求人票に少しでも良い条件を提示しなければ採用ができないため、福利厚生の一環として社員寮を用意することもありますが、なかには、とても人が住めるような状態でない物件用意し、期待を持って入社した社員が即日退職してしまうケースなども散見されるようです。

休み・有給休暇の取得が難しい

2つ目は、休みや有給休暇の取得が難しいことです。

厚生労働省の「令和6年就労条件総合調査 結果の概況」によると、労働者1人あたりの平均年次有給休暇の取得状況 は、全産業平均が11.0日に対して、宿泊業・飲食サービス業が5.9日と最も低く、平均の半分程度となっております。また、取得率も全体平均が65,3%に対して51.0%と下回っています。

これらの背景には、そもそも人手不足で休みが取りづらいという問題もありますが、特に小規模なホテルや旅館は、従業員一人の業務量が多く休んだ際に代役を立てれないなどの実情もあるのです。

長時間労働(24時間365日)

3つ目は、長時間労働という要因です。

ホテル・旅館は特別なことがない限り、24時間365日稼働をしているのが一般的です。このような営業形態は、従業員を多く抱える必要があり、従業員には長時間労働や不規則な労働時間などの負担となることも多いのです。

ホテル・宿泊業界の構造的な問題

次に、ホテル・宿泊業界の構造的な問題もあげられます。以下にいくつか見ていきましょう。

繁閑差による人員配置の難しさ

まず考えられるのが、繁閑差による人員配置が難しいという問題です。

どうしても「観光」との結びつきが強いホテル・宿泊業界のため、長期休みをはじめとして繁忙期シーズンに需要が集中するなど、繁閑の差が大きくなってしまいます。そのため、繁忙期は業務量が増えて残業や長時間労働、不規則な労働形態などの負担が従業員にかかりがちです。

キャリアパスの不明確さ

キャリアパスの不明確さがあるのも問題の1つでしょう。大型のホテルなどで複数のポジションがあるような場合を除き、ホテル業界は職種によって昇進の道が限られていることがあり、長期的に見てキャリアパスをイメージしにくいと感じる従業員は少なくありません。具体的には、フロントや客室係などの現場職から管理職への昇格機会が少ないなどがあり、若手の離職率が高くなってしまいます。

人材育成コストの負担

人材育成コストの負担も大きな問題です。

日本特有のおもてなし精神や高水準のホスピタリティを維持するためには、従業員への教育が欠かせません。特に未経験の新入社員に対する研修やスキルアップのための教育プログラムは多くのコストと時間を要するでしょう。

ホテル・旅館での人手不足対策は?

では、ホテル・旅館の人手不足はどのように対策すればよいのでしょうか?

ここではいくつかの対策方法を紹介します。

IT・DX化を推進する

まずは、IT・DX化による対策です。

ホテル・旅館においても各業務を分解し、IT・DXを取り入れることで業務効率を大幅に改善することはできるでしょう。

例えば、チェックインやチェックアウトを自動チェックイン機やスマートチェックインのシステムを使うなどは多くの宿泊施設でも取り入れられています。また、客室の予約・在庫管理やプライシングにAIを利用することや、清掃業務でロボットを活用したり、アメニティなどの商品在庫の自動化など様々な業務にIT・DXを取り入れることで従業員の負担や工数の削減が期待されます。

給与・福利厚生の見直しを行う

前述の通り、他業種との給与格差が人手不足の要因にもなっているため、給与や福利厚生などの待遇面の見直し、改善も大切です。

また、キャリアパスを示してあげるなどを並行して行うことで、「長く働き続けたい」と勤務意欲やモチベーションの向上に繋がるでしょう。

長時間労働を是正し、労働環境を改善する

労働環境の改善も人手不足対策として重要です。

特にホテル・宿泊業界において言えば、長時間労働の是正や休憩時間の確保などは効果的でしょう。前述のIT・DX化による業務効率改善、待遇の見直しと併せて労働環境改善を行う企業も少なくありません。

人材採用へ投資を行う

人手不足が労働環境の悪化を招き、離職率が向上するという悪循環が発生することもあるでしょう。この悪循環を断ち切るために、他の対策と並行して人材採用にある程度のコストを投資することも大切でしょう。

具体的には人材紹介会社や求人媒体などの積極的活用や、SNSなどを使った新しい採用手法への投資などが挙げられます。

外国人労働者の採用を行う

人手不足が著しい業界では、日本人だけでは労働力を確保できないため、外国人労働者の雇用も重要です。

また、昨今のインバウンド需要の急増でグローバルな対応が求められるため、英語や他言語での対応が可能な外国人労働者の活躍は期待できるでしょう。

ホテル・旅館で外国人を採用するにはどうしたら良い?

ホテル・旅館での人手不足対策として、外国人労働者の採用を挙げましたが、具体的にはどのように採用したら良いのでしょうか?

ここでは、外国人労働者の採用方法や注意点について見ていきます。

「在留資格(ビザ)」ごとに異なる外国人採用戦略

ホテル・旅館と言っても、レストランサービス・客室清掃・フロント・営業などの総合職…など、いくつかの部門に専門分化されており、専従業員が配置されているケースがあります。

そのため、どの部門でどのような業務を任せるかによって、採用する外国人労働者の在留資格が変わるため注意が必要です。

フロント・オフィスワーク業務は「技術・人文知識・国際業務」

ホテル・宿泊業の場合、フロントでの接客や通訳、営業や事務などのオフィスワークなどの業務については、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格が必要です。

この在留資格は、外国人がこれまで学んできた知識や培ってきた経験、母国の文化・言語に関する知識に関連性のある業務に従事することが可能です。ホテルや旅館で従事可能な業務は、主に「フロント業務」「オフィスワークなどの営業や事務系業務」です。

レストラン部門での外国人採用は特定技能「外食」

外国人をホテルレストランスタッフ専業として従事する場合は「外食」分野の特定技能ビザが必要です。いわゆる、ホテルや旅館のレストランでの配膳や調理などの業務です。この在留資格は外食分野の業務に特化しているため、レストラン内の業務以外の、例えば、ホテルフロント業務などはできません。

清掃業務での外国人採用は特定技能「ビルクリーニング」

客室の清掃やベットメイキングなどの清掃業務の専従外国人であれば、特定技能「ビルクリーニング」の在留資格が必要です。

ただし、自社にて彼らを雇用して清掃業務を行わせるためには、建築物清掃業又は建築物環境衛生総合管理業の登録が必要です。もし、これらの登録をしていない場合は、清掃業務全般を請け負っているビルクリーニング会社への業務外注が一般的でしょう。また、特定技能ビルクリーニングで認められている業務以外は行うことはできません。

オフィスワーク以外の現場業務全般は特定技能「宿泊」

特定技能「宿泊」の在留資格であれば、フロント業務、接客業務、レストランサービス業務などの幅広い現場業務全般を任せることが可能です。また、付随的であれば、ベットメイキングや清掃などの業務も可能です。技術・人文知識・国際業務の在留資格よりも、幅広く現場業務に対応できるのが特徴です。

ホテル・宿泊業界で外国人従業員を雇用する際には、不法就労助長罪に注意

先述の通り、従事させる業務によって必要な在留資格がことなるのがホテル・宿泊業界の外国人雇用です。

しかしながら、実際のところは、「技術・人文知識・国際業務」の外国人に対して、ベットメイクや清掃の業務を主にやらせる、レストランでの調理やサービス給仕のみに従事させる、などのケースも多く発生しています。

これは、不法就労助長罪に該当する可能性があり、罰則として3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方が科されることがあるのでご注意下さい。

出入国在留管理庁から、「ホテル・旅館等において外国人が就労する場合の在留資格の明確化について」として、在留資格の該当性に係る考え方及び許可・不許可に係る具体的な事例が公表されており、今後はこれらをガイドラインとして摘発が増えることも考えらます。

ホテル・宿泊業界で外国人を採用するなら特定技能がおすすめ

ホテル・宿泊業界においては、在留資格「特定技能」ができるまでは、ある程度の業務制限を受けながら「技術・人文知識・国際業務」の外国人を雇用するのが一般的でした。しかしながら、業界全体の人手不足もあり、より幅広い業務を行える人材が必要なのは間違いありません。

そのため、ホテル・宿泊業界での外国人採用は技人国ビザよりも幅広い現場業務に対応可能な特定技能「宿泊」分野がおすすめでしょう。

まとめ

今回はホテル・宿泊業界の人手不足の現状と対策について見てきましたが、いかがでしたか。

訪日外国人が過去最高を記録している今、人員確保が急務の企業も多いのではないでしょうか。

現場業務を幅広く従事できる特定技能の外国人採用も検討したい、外国人採用は何をしたら良いか分からない、、、など、少しでもお困りのことがありましたら是非お気軽にお問い合わせ下さい。

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監修者
編集
中村 大介
1985年兵庫県神戸市生まれ。2008年に近畿大学卒業後、フランチャイズ支援および経営コンサルティングを行う一部上場企業に入社し、新規事業開発に従事。2015年、スタートアップを共同創業。取締役として外国人労働者の求人サービスを複数立上げやシステム開発を主導。2021年に株式会社ジンザイベースを創業。海外の送り出し機関を介さず、直接マッチングすることで大幅にコストを抑えた特定技能人材の紹介を実現。このシステムで日本国内外に住む外国人材と日本の企業をつなぎ、累計3000名以上のベトナム、インドネシア、タイ、ミャンマー、バングラデシュ、ネパール等の人材採用に携わり、顧客企業の人手不足解決に貢献している。著書「日本人が知らない外国人労働者のひみつ(2024/12/10 白夜書房 )」
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