特定技能の対象分野である宿泊業ですが、特定技能外国人を雇用した場合は具体的にどのような業務までを担当されることができるのでしょうか?
この記事では、宿泊業で特定技能外国人が従事できる業務内容、雇用形態や報酬、試験のスケジュールや合格率など、基本について解説しています。宿泊業で特定技能外国人の受け入れをご検討されている企業様は、是非最後までご覧ください。
特定技能「宿泊」について
在留資格「特定技能」は、2019年4月に設けられた新たな就労系在留資格で、人手不足の解消を目的として設けられたものです。
この制度により、日本国内において特に人手不足が深刻とされる産業分野で、単純労働を含めた職種でも外国人労働者の活用が可能となりました。
「宿泊業」においても、特定技能の対象分野の1つで、特定技能「宿泊」の在留資格を有している外国人は、ホテルや旅館で、フロントやレストランサービスなどの基本業務に加えて、ベッドメイキングなどの客室清掃まで、幅広い業務に従事することが可能です。
なお、宿泊業での特定技能受け入れなどについては、YouTubeでも動画形式で解説していますので、是非併せてご覧ください!
特定技能「宿泊」ができた背景とは?
特定技能で、宿泊業が認められた背景として、宿泊業での人手不足の深刻化があげられます。
国土交通省が発行している「宿泊分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」によれば、特定技能が創設される前の2017年において、宿泊分野に係る職業の有効求人倍率は6.15倍となっています。
また2017年当時で約3万人の人手不足が生じており、そのまま手を打たずに放置していれば、5年後には約10万人もの人手不足が生じると推計されていました。
この宿泊業での人手不足の背景としては、訪日外国人数の増加が考えられます。以下の表は日本政府観光局(JNTO)が公表している年別の訪日外国人の推移です。
訪日外国人数は、2013年に年間1,000万人を超えてから新型コロナ拡大前の2019年まで急激に伸びており、入国制限の緩和等コロナの影響がほぼ収まった現在においても、訪日外国人数も増加しています。2024年は3300万人と2019年を超えることが予想されます。
このような状況がある中で、深刻な人手不足の事態を回避するために、国内の多様な人材活用を促進するだけでなく、外国人労働者の活用も着目され、特定技能の対象となったと言えるでしょう。
宿泊業界の現状はどうなってる?
では、現在、宿泊業では何名の特定技能外国人が働いているのでしょうか。
日本に在留する特定技能外国人は、2023年12月末時点で、208,425名です。同年6月末時点では173,089名なので、半年で約35,000名増加しています。
宿泊分野において言えば、2023年12月末で401名で、同年6月末では293名であったため、半年間で108名増加しております。ただ、増加はしているものの、他の分野と比べると圧倒的に特定技能の活用が進んでいない業種であることが伺えます。
後に詳しく解説しますが、特定技能「宿泊業」の資格を取得するための試験は、国内外で定期的に実施されております。合格率も50%前後と悪くはなく、2023年度は、国内外合わせて1,1000名以上の外国人がこの試験に合格しているという状況です。つまり、宿泊業における特定技能外国人の予備軍は多数いる現状です。
また、弊社にも特定技能受け入れの問い合わせをホテル・旅館業の事業者様から多数いただいている状況ですので、これから宿泊業での特定技能在留者数は急増していく可能性があり、今後の推移に関しては注視していく必要があるでしょう。
特定技能1号と特定技能2号の違い
特定技能は、1号と2号という技能習得度による2つの区分があります。
これまで、特定技能2号は建設業と造船・舶用工業の2分野のみでしたが、2023年に対象分野が拡大しており、宿泊分野も2号の対象です。
1号は受け入れ分野で即戦力として活動するために必要な知識または経験を有する人材が対象、2号は受け入れ分野で熟練した技能を有する人材が対象とされています。
宿泊業においては、1号の受験資格は概ね年齢制限(満17歳以上)だけですが、2号の場合は、宿泊施設において複数の従業員を指導しながら、フロント、企画・広報、接客、レストランサービス等の業務に2年以上従事した実務経験を有する者とされています。
特定技能1号と2号の違いに関しては、以下の記事で詳しく解説しておりますので是非ご覧下さい。
▶在留資格「特定技能」とは?技能実習との違いも含めてわかりやすく解説!
特定技能「宿泊」の業務内容は?
ここからは「宿泊業」で特定技能を受け入れた場合、実際にどのような業務ができるのかを見ていきます。
ホテル・旅館業務全般
分野別運用要領によれば、宿泊施設において以下のような業務に従事できるとしています。
- フロント
- 企画・広報
- 接客
- レストランサービス
つまり、ホテルや旅館で必要とされる業務全般に従事することが認められているのです。
ベットメイキングなどの関連業務
上記の4つの業務以外でも、日本人社員も通常従事する関連業務についても、付随的に従事することが可能です。
関連業務とは、館内販売や館内備品の点検・交換、またベットメイキングなどの客室清掃業務などが挙げられます。
ただし、この関連業務を主たる業務とすることは認められません。つまり、ベットメイキング業務のみに専従させることはNGです。
特定技能1号「宿泊」を取得する方法
では、特定技能1号「宿泊」を取得するためにはどうすれば良いのでしょうか?
取得方法は大きく分けると以下の2通りです。
- 特定技能評価試験に合格するルート
- 技能実習からの移行するルート
それぞれ詳しく見ていきましょう。
特定技能評価試験に合格する
こちらはよりスタンダードなルートです。基本的に特定技能の在留資格を取得するためには、各分野で設けられた「特定技能評価試験」に合格をする必要があります。
宿泊業で言えば、「宿泊分野特定技能1号評価試験」と「日本語能力試験」にパスすることで、即戦力かつ日本語能力が問題ないと認められるのです。
試験の詳細は後述します。
技能実習2号からの移行
もうひとつのルートは、宿泊分野の技能実習2号から移行をする方法です。
技能実習は、発展途上国への日本の技術移転が目的のため、技能実習生は日本での就労で技能習得をしたあとは帰国する必要があります。
しかし、技能実習2号を良好に修了した外国人は先にあげた特定技能評価試験を受験することなく移行することが可能です。※ 良好とは、「技能実習計画を2年10ヶ月以上修了」している状態
ただし、このルートの場合は、技能実習と特定技能の分野が同じである必要があり、宿泊分野以外の分野で技能実習2号を修了しても試験の免除はされず、改めて特定技能評価試験を受験しなければなりません。
技能実習制度について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧下さい。
▶技能実習生って問題だらけ?制度や受け入れ方法について徹底解説!
特定技能1号「宿泊」の試験内容とは?
ここからは宿泊分野における特定技能評価試験について詳しく解説します。
日本語試験の内容と対策
日本語試験とは、その名の通り、外国人の日本語の能力を測る試験です。
特定技能取得においては、「日本語能力試験(JLPT)」もしくは「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」の2つのどちらかを受験し、JLPTであればN4、JFT-BasicであればA2の合格基準を満たす必要があります。
それぞれの試験については以下の通りです。
日本語能力試験(JLPT)
日本語能力試験は、国際交流基金と日本国際教育支援協会が運営しており、年間100万人以上が受験する世界最大規模の日本語試験です。
内容は、言語知識(文字、語彙、文法)・読解・聴解の3つの要素から日本語のコミュニケーション能力をはかるマークシート方式、180点満点のうち点数によって5段階に日本語レベルが分けられ、N1~N5と表現されます。
N1が最も日本語能力が高いレベル、N5が最も低いレベルとされ、特定技能取得ではN4(基本的な日本語を理解できるレベル)以上が必要です。
JLPTのWEBサイトに問題例がありますので、そちらで対策をすると良いでしょう。
国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)
国際交流基金日本語基礎テストは、就労を目的として来日する外国人が日常生活でのコミュニケーションに必要な日本語能力を持っているかを判定する試験です。
内容は、文字と語彙・会話と表現・聴解・読解の4つの要素から日本語力をはかる、CBT方式で、250点満点で点数により、A1・A2・B1・B2・C1・C2の6段階に日本語レベルが分けられます。
A1が最も低いレベル、C2が最も高いレベルとされ、特定技能取得ではA2レベル以上が必要です。
こちらもJFT-Basic公式サイトにてサンプル問題がありますので、そちらで対策をすると良いでしょう。
宿泊技能評価試験
特定技能1号「宿泊」を取得するために受験する必要がある技能評価試験は、一般社団法人 宿泊業技能試験センターが実施している「宿泊分野特定技能1号評価試験」です。
この試験についてもう少し詳しく見ていきましょう。
受験するための資格
まず受験資格ですが、特定技能評価試験は国籍や学歴による制限がないため、18歳以上であれば受験が可能です。日本国内で受験する場合においては「在留資格を有する者」という制限がありますが、中長期在留者でなく旅行などの短期滞在でも受験は可能です。
試験日程と開催場所
宿泊分野特定技能1号評価試験は、2024年度からは毎月の頻度で開催がされています。また、日本国内だけでなく海外でも受験可能です。
・開催頻度:日本は毎月、海外は数年間、同じ実施国において前年同月
・開催場所:日本、インド、インドネシア、ネパール、フィリピン、スリランカ、ミャンマー、ベトナムの各都市
・試験日程:こちらをご覧ください
試験内容・過去問題集
試験はCBT方式で学科試験と実技試験が実施されます。
試験内容については、宿泊業で必要とされる技能や知識である「フロント業務」「広報・企画業務」「接客業務」「レストランサービス業務」「安全衛生その他基礎知識」の5つのカテゴリーより出題され、日本の旅館・ホテルでの業務に従事するための技能レベルを確認するとされていますが、最新版の実施要項では以下のように記載されています。
また、過去問題集や教材サンプルもあるので、こちらからご確認下さい。
特定技能2号「宿泊」の取得方法
続いて、特定技能2号「宿泊」の取得方法について見ていきます。
まず、特定技能2号「宿泊」を取得するには、1号同様に特定技能評価試験である「宿泊分野特定技能2号評価試験」に合格する必要があります。
また、もう1つの要件として、宿泊施設において複数の従業員を指導しながら、フロント、 企画・広報、接客、レストランサービス等の業務に2年以上従事した実務経験も必要となります。
特定技能2号については弊社のYouTubeチャンネルでもお話していますので是非ご覧下さい。
特定技能2号の試験内容と注意点
宿泊分野特定技能2号評価試験は、基本的に試験科目構成については1号試験と同様ですが、学科が50問、実技が20問と共に問題数が増えます。
ただ、試験水準は、
専門性・技能を生かした業務に即戦力として従事できる知識と経験が兼ね備わっていることを測定するため、実務経験7年以上の者が3割合格できる水準とする。
とされており、2024年3月の国内試験では23名中で合格者1名(合格率4.35%)と難易度が高い試験です。
特定技能外国人を受け入れるまでにすべきこと
最後に、宿泊分野で特定技能外国人を受け入れる流れや、受け入れ企業側がすべきことについて確認していきましょう。
支援体制の整備し、受け入れ基準を満たす
特定技能外国人を受け入れるにあたって、受け入れ機関は以下の基準を満たす必要があります。
特に、支援体制に関する基準に関しては、直近2年以内に外国人の受け入れ実績や生活支援の担当業務に従事した経験のある従業員がいない場合、満たすことができません。こういった場合、「登録支援機関」という第三者機関に委託することで、基準を満たしたとみなされます。そのため、特定技能外国人を受け入れる際は、登録支援機関の活用もぜひご検討してみてください。
さらに、宿泊分野においては上記の受け入れ機関としての基準に加え、宿泊分野特有の要件を満たさなければなりません。
具体的には以下の要件が設けられています。
・旅館業法の「旅館・ホテル営業」の許可を受けている施設
・宿泊分野特定技能協議会への加入
旅館・ホテル営業の許可が必須のため、簡易宿泊所営業や下宿営業の許可を取得している旅館業では、特定技能外国人の受け入れができません。
登録支援機関については以下の記事で詳しく紹介しております。是非併せてご覧下さい。
▶登録支援機関の役割って何?特定技能外国人への支援内容や選び方を解説!
人材募集から入社までの流れ
特定技能外国人の募集から入社までの流れは、基本的に以下のようになります。
国外から呼び寄せるパターンと国内での転職希望者を雇用するパターンで若干流れが変わってくる点はご注意ください。
ステップ①:人材募集・面接
まずは外国人の募集を行い、対面もしくはオンラインで面接を実施することになります。
ステップ②:特定技能雇用契約の締結
無事面接が完了し、採用が決まれば、次に行うべきは特定技能雇用契約の締結です。
ステップ③:1号特定技能支援計画の策定
次に1号特定技能支援計画の策定を実施します。
特定技能1号の外国人を受け入れる際、外国人が安定して働くことができるように、業務上は勿論のこと、日常生活面での支援も行う必要があります。次のステップで実施する在留資格申請の際に、具体的にどのような支援を行うのかを支援計画書として提示する必要があるため、雇用契約締結後に支援計画を策定することになります。
こちらの支援計画の策定に関しては、先にもあげた「登録支援機関」を活用することで、作成サポートを受けることが可能です。
ステップ④:在留資格認定・変更申請
続いてのステップは、在留資格の申請を最寄りの出入国在留管理局へ実施します。
国外から呼び寄せる場合は、「在留資格認定証明書交付申請」、すでに国内に在住している方は「在留資格変更許可申請」を行います。どちらも、概ね申請から許可が下りるまで、1ヶ月〜2ヶ月程度の時間がかかります。
この時に用意すべき書類は大きく以下の3つのカテゴリーに分けられます。
- 外国人本人に関する書類
- 受け入れ機関に関する書類
- 分野に関する書類
それぞれに該当する必要書類は多岐に渡るため、こちらの出入国在留管理庁のサイトをご覧ください。
また、注意点として、すでに「特定技能1号」の在留資格を持っている方を受け入れる場合であったとしても、新たに「在留資格変更許可申請」が必須です。そのため、特定技能保持者であったとしても、入管からの許可がおりなければ、働き始めることはできないという点は覚えておきましょう。
ステップ⑤:ビザ申請
こちらは、国外から呼び寄せる場合のみ発生してくるステップになります。
無事に出入国在留管理庁から在留資格認定証明書が交付されたら、当該書類を現地国の外国人へ郵送し、パスポート等と併せて在外日本国大使館へビザ申請を実施します。
ビザが無事に交付されたら、初めて日本へ入国することが可能となります。(ビザ交付までは概ね2-3週間程度が平均となっています。)
ステップ⑥:就業開始
無事在留資格の認定や変更が完了すれば、入国・就業が開始となります。
なお、特定技能外国人の募集〜採用の流れについて、より詳細情報を知りたい方は以下の記事を併せてご覧下さい。
▶【特定技能外国人の採用方法】実務で使える!採用の流れから必要な手続きノウハウまで徹底解説
宿泊分野特定技能協議会へ加入する
宿泊分野で特定技能外国人を受け入れる企業は、外国人を受け入れた日から4か月以内に国土交通省が設置する「宿泊分野特定技能協議会」に加入することが義務付けられています。
入会方法としては、こちらの観光庁WEBサイトにアクセスし、【宿泊分野特定技能協議会】の段に添付されている「入会届出書等の様式」を作成し、観光庁観光産業課に直接郵送する必要があります。
なお、風俗営業法に該当する施設では受け入れることができない点と、同法の「接待」を外国人に行わせることもできない点は、ご注意ください。
受け入れ人数の確認
技能実習や特定技能の建設、介護分野においては受け入れ人数に制限がありますが、特定技能の宿泊分野においては企業(事業所)ごとで受け入れ人数の制限はありません。1事業所で何名雇用しても問題ありません。
受け入れ費用はどれぐらい?
最後に、宿泊分野で特定技能外国人を雇用する際に発生する費用について見ていきましょう。
海外から呼び寄せるケースで、ベトナム・カンボジア・ミャンマー・フィリピンから呼び寄せる場合は、送り出し機関を必ず通さなければなりません。そのため、送り出し機関への手数料として一定の費用が発生してくる点はご留意ください。
また、人材紹介会社を活用して募集をした場合は、成功報酬で人材紹介手数料が発生してきます。
申請書類の作成サポートを登録支援機関や行政書士に委託した場合、初回申請及び、毎年在留期間の更新を実施しなければならないので、その手続きのたびに費用が発生してきます。
最後に、登録支援機関に支援体制に関する基準を満たすために、支援業務を委託している場合、毎月支援委託費用が特定技能外国人1名あたり発生してきます。
上記の費用はあくまで概算のため、企業ごとに変動することはあるものの、一定の費用は発生してくる点は押さえておきましょう。
より詳細な特定技能外国人の受け入れ費用については以下の記事をご覧下さい。
▶【特定技能外国人の受け入れ費用まとめ】費用相場もあわせて紹介
まとめ
今回は特定技能における宿泊分野について詳しくお話してきましたが、いかがでしたか。
当社は本文中でもご紹介した登録支援機関として、受け入れ企業様をサポートさせていただいております。
支援計画の策定や実施は勿論、特定技能外国人の人材紹介サービスなども行っておりますので、ご興味ありましたらぜひ以下のサービスサイトからお気軽にご相談ください。