アンコンシャスバイアスとは
初めにアンコンシャスバイアスとは何か、基本的な内容について押さえておきましょう。
アンコンシャスバイアスの概要と生じる原因
アンコンシャスバイアスとは、自分自身では気づいていない「無意識の思い込み、偏見」のことを指します。
これまでの経験は勿論、持っている価値観や考え方を基に、自動的に認知や判断をしてしまい、何気ない言動として現れることになります。
アンコンシャスバイアスが生じる理由としては、ヒューリスティックが挙げられます。
ヒューリスティックは「必ずしも正しい答えではないが、ある程度正解に近い回答を導き出す考え方」のことで、基本的に全ての人が日常生活を送る上で多用しているものです。
人間の脳には大きく
- 直感で判断する機能
- 論理的に考える機能
の2つが備わっており、ヒューリスティックは直感で判断する機能に由来します。
つまり、これまでの経験則に基づき、直感で判断することになり、アンコンシャスバイアスが生じる原因となってしまうわけです。
アンコンシャスバイアスが注目されている背景
アンコンシャスバイアスが注目され始めた背景としては、社会の多様化の進展が挙げられます。
2010年代以降非正規社員やシニア、外国人労働者、LGBTQ+といった多様な人材が、様々な企業においても活用され始めました。
そんな中、企業内で価値観や性別、経験則などの違いからトラブルやハラスメントなどが多発するようになり、アンコンシャスバイアスへの理解やその対策などが注目され始めたのです。
実際に、アンコンシャスバイアス研修を実施する企業も増えています。
多様化(ダイバーシティ)に関しては、以下の記事もぜひあわせてご覧ください。
▶︎【ダイバーシティマネジメントとは】意味やメリット、具体例を解説します!
アンコンシャスバイアスが及ぼす影響
それではアンコンシャスバイアスはどのような影響を及ぼすことになるのでしょうか。
アンコンシャスバイアスを認識せず、対策も打たなかった場合、以下のような悪影響が生じる可能性があります。
- 正確かつ適正な人事評価ができない
- セクシュアルハラスメントやモラルハラスメントなどが多発してしまう
- ダイバーシティの推進が妨げられる
- 人間関係の悪化
- 離職率の上昇
- イノベーションが起きにくい
これらの悪影響を防ぐためにも、アンコンシャスバイアスの存在や具体例を把握した上で、正しい対策を打つ必要があるのです。
アンコンシャスバイアスの具体例
それではここからアンコンシャスバイアスの具体例や職場における事例について解説していきます。
まずはアンコンシャスバイアスの具体例として、8つのバイアスや心理効果を確認していきましょう。
正常性バイアス
正常性バイアスとは、不足の事態や危機的な状況下において、正確にその状況を認識せずに、無意識のうちに正常な状況であると捉えてしまうバイアスのことを指します。
つまり、何かしらの対処が必要な問題が生じたとしても、正常性バイアスが作用することで問題ないだろうと判断してしまい、対処が遅れてしまうわけです。
より具体的な例としては
- 業界全体に対して驚異となる新規事業者が参入してきたとしても、自分の会社は問題ないと判断してしまう
- 業績が悪化した影響で給料が下がってしまったが、社員たちはみんな今の状況をわかっているから、辞めずに残ってくれるだろうと思う
などが挙げられます。
確証バイアス
確証バイアスとは、自分の立てた仮説などを検証する際、その仮説が正しいとする意見や情報のみを集め、反証する情報を無視してしまう心理的な効果を指しています。
仕事のシーン含めて、様々なシーンで見られるアンコンシャスバイアスとなっており、具体例としては以下のようなケースが挙げられます。
- 外国人労働者の活用には否定的であるため、外国人労働者の活用デメリットやリスクに関する情報ばかり集めてしまう
- 新規市場への参入を検討しており、参入することで得られるメリットや利益ばかりに目が行き、参入リスクなどの検証を疎かにしてしまう
外国人労働者雇用におけるメリットやデメリット、その他雇用の基本についてご興味ある方は、以下の記事をご参照ください。
▶︎【外国人労働者雇用の基本】入社までのステップや注意点などを簡単解説
多数派同調性バイアス
多数派同調性バイアスとは、組織や団体に所属している中で、その組織や団体における多数派に対して同調してしまう傾向のことです。
いわゆる同調圧力なども含まれるバイアスとなります。
多数派同調性バイアスの例としては
- 会議において最終的に多数決で決める
- 周りのメンバーもしているからと、コンプライアンスに違反するような行動を取る
などが挙げられます。
権威バイアス
権威バイアスとは、社長などの経営者や、部・課長などの役職者が言うのであれば、正しいだろうと思いこんでしまうことです。
どれだけ権威のある立場についていても、状況次第で間違えた考え方や発言をしてしまう可能性は十分にあるものの、どうしても権威のある立場に対しては無条件に正しいとしてしまいがちと言えます。
例えば
- 顧客対応について部長が「こうやればいい」ということに、盲目的に従ってしまう
- 専門家の意見を検証せずに、そのまま受け入れてしまう
といったケースが挙げられます。
ステレオタイプバイアス
ステレオタイプバイアスとは、性別や国籍、年齢などの属性に基づいて一定の特徴があると判断してしまうことを指します。
ステレオタイプに基づくバイアスも確証バイアスなどとともに、アンコンシャスバイアスの中でも代表的なものとなっており、具体例としては以下のようなものが挙げられます。
- 外国人労働者は、マイペースで時間管理ができないと思う
- 女性は感情で動くから、マネジメントしにくいと考える
アインシュテルング効果
アインシュテルング効果とは、従来から慣れ親しんだ考え方や視点、対応方法などに固執してしまうことを指します。
何か対応が必要な事態が生じても、別の考え方や対応などの可能性を無視してしまうわけです。
具体例としては
- イレギュラーな事態が起きても、マニュアル通りの対応をしてしまう
- 過去の成功体験にこだわってしまい、市場の変化に柔軟に対応できない
といったことが挙げられるでしょう。
慈悲的差別
慈悲的差別とは、慈悲や好意から生じる差別・思い込みのことを指し、アンコンシャスバイアスの中でも代表的なものの一つと言えます。
特に女性やシニアに対して生じる可能性があり、例えば
- シニアということを理由に力仕事は任せない
- 妊娠中であることを理由に、本人が希望しても残業はさせない
といったことが挙げられます。
本人は「良かれと思って」こういった対応をしているため、アンコンシャスバイアスの中でも特に気づきにくいと言えるでしょう。
ハロー効果
アンコンシャスバイアスの具体例の最後にご紹介するのは、ハロー効果です。
ハロー効果とは、一部の長所を認識しただけで、全てを良く捉えてしまうことを指します。
具体例としては
- 学歴が高い人材であれば、ビジネスにおいても優秀だと思う
- 容姿が整っている人の方を優先的に採用してしまう
などが挙げられます。
アンコンシャスバイアスの事例
次にアンコンシャスバイアスの職場における事例をより具体的にご紹介していきます。
採用シーンにおける事例
事例①:外国人であることだけを理由に不採用にしてしまう
外国人であることを理由として不採用にしてしまうというケースは、様々なケースで見られますが、典型的なアンコンシャスバイアスの事例と言えます。
外国人労働者はどうしても
- 何かリスクがありそう
- マイペースで、やる気がない
- 単純な作業しか任せられない
といった風に思われがちです。
各種在留資格にまつわる法令をしっかりと把握し、適切な手続きを行うことでリスクは限りなく0に近づけることができますし、中には専門性を有している外国人もいるため、高度な業務をお任せすることももちろん可能です。
ただし、在留資格によって、従事可能な業務内容は変わってきますので、外国人を雇用する際には以下の記事を参考にしてみてください。
▶︎【在留資格とは】種類や取得要件、ビザとの違いなどを簡単解説
事例②:文化系出身だから忍耐がないと判断し、不採用としてしまう
また文化系出身だから忍耐がないと判断し、不採用としてしまうといったケースも考えられます。
最近では少なくなってきたとは思いますが、大抵の人は体育会系出身である場合、困難な状況に陥っても粘り強く頑張ってくれると思い、逆に文化系出身の場合だと忍耐がないという風に思いがちです。
実際のところ文化系出身者であることと忍耐の有無についての相関関係などはなく、ただただ個人差があるだけの話ですが、こういった思い込みで文化系出身者よりも、体育会系出身者を優先してしまう会社はあると言えるでしょう。
人事評価・育成シーンにおける事例
事例①:定時で帰宅する人に対して、やる気がないと判断する
日本は古くから残業をしている人は頑張っている、定時で帰宅する人はやる気がないという判断をしてしまう傾向にあります。
ただ実際のところ残業をしている人と定時で帰宅する人の生産性を測ってみると、後者の方が「生産性が高い」というケースがあるでしょう。
こういった思い込みが生じると、どうしても適正な人事評価に繋がらず、社員の不満も増長してしまうのです。
事例②:直近で大きな成果を出した人を高く評価してしまいがちになる
直近で大きな成果を出した人を高く評価してしまいがち、という点も事例として挙げられます。
人事評価は通年評価と半期ごとの評価が中心となりますが、その際半期における後半や年度末に大きな成果を出した人は高く評価されがちで、逆に前半や年度初めに成果を出していても、評価されにくいといったケースが往々にしてあるのです。
このような思い込みも適正な人事評価の妨げとなるため、注意が必要となります。
昇進や配置シーンにおける事例
事例①:外国人労働者に責任のある仕事を任せない
外国人労働者に対して、いつか帰国するだろうと思いこみ、責任のある仕事を任せないというのもアンコンシャスバイアスの事例として挙げられます。
外国人労働者の中には出稼ぎできており、どこかのタイミングで帰国を考えている人も当然います。
しかし日本で長期に渡って働きたいという外国人労働者も一定数いるはずです。
その点を個々人に確認することなく、「外国人」と一括りにして配置などを決めてしまうケースは往々にしてあるでしょう。
事例②:育児中の女性社員は昇進候補に挙がらない
育児中の女性社員が昇進候補として挙がらないということも、様々な企業で起こりうるケースと言えます。
育児中であるから仕事よりも家庭を優先するのではないかという思いや、体力や時間もないだろうと勝手に判断し、昇進させないわけです。
しかし育児をしている女性社員の中には、仕事も頑張りたい、昇進したいという人も必ずいるので、そういった個人個人の想いや希望もしっかりと取り入れて昇進の判断をすべきと言えるでしょう。
アンコンシャスバイアスの対策とその効果
最後にアンコンシャスバイアスへの対策方法とその効果について、確認しておきたいと思います。
アンコンシャスバイアスへの対策方法
アンコンシャスバイアスへの対策方法は至ってシンプルです。
基本的には
- アンコンシャスバイアスについて知る
- 自分がどのようなアンコンシャスバイアスに陥っているか気付く
- 言動を改善する
という3つのステップを踏むことになります。
アンコンシャスバイアスの概要や具体例などをテーマとした研修を実施した上で、自分や所属部署内で見られる事例について議論を行うといった取り組みが代表的ですね。
とにもかくにも、アンコンシャスバイアスの対策においては、「知る」というプロセスがかなり重要になってくるので、その点は覚えておきましょう。
アンコンシャスバイアス対策の効果
アンコンシャスバイアスの対策に適切に取り組むことで、以下のような効果を得ることができます。
- ダイバーシティやインクルージョンの促進
- 各種ハラスメントの予防や防止
- イノベーションの促進
- 社員の満足度の向上
- 業績の向上
これらの効果を得るためにも、アンコンシャスバイアスについての正しい知識を全社員に浸透させて、現状を把握し、言動の改善にまで繋げていくようにしましょう。
なお、ダイバーシティ・インクルージョンについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
▶︎【ダイバーシティ&インクルージョン】意味や具体的な取り組みについて解説
まとめ
今回はアンコンシャスバイアスについて概要や具体例を交えつつお話してきましたが、いかがでしたか。
アンコンシャスバイアスは、ダイバーシティの促進にとって大きな阻害要因となるため、是非この記事を参考にして対策に取り組んでいただければと思います。
また当社は外国人労働者を専門とした人材紹介サービスを提供しております。
外国人労働者の活用やダイバーシティ促進の取り組みにご興味ありましたら、是非一度お気軽にご相談ください。