強制送還とは
まずは強制送還の概要や適用されるケースから見ていきましょう。
強制送還の概要
強制送還とは、日本に在留している外国人を強制的に出国させる際に実施する行政手続きのことを指します。
ただし、強制送還という言葉自体は、上記に該当する行政手続きの総称となっており、具体的には「退去強制」と「出国命令」という2種類の行政手続きのことを指す言葉として使われています。
退去強制とは
退去強制とは、犯罪や不法滞在などが摘発された外国人に対して課される行政処分です。
退去強制に該当する事案が発生した時点で速やかに送還されることになりますが、何かしらの事情があり速やかな送還が難しい場合、入国者収容所などに収容されることになります。
送還先は基本的に「当該外国人の国籍や市民権が属する国」になりますが、その国に送還できない場合は、以下の国に送還されることになるのです。
- 本邦に入国する直前に居住していた国
- 本邦に入国する前に居住していたことのある国
- 本邦に向けて船舶などに乗った港の属する国
- 出生地の属する国
- 出生時にその出生地の属していた国
- その他の国
出国命令とは
出国命令とは、主に不法滞在をした外国人などを対象とした行政処分となっており、先に挙げた退去強制の一種です。
退去強制とは異なり、収容所への収容がなく、再度上陸するまでの拒否期間が短く済むなど、比較的緩やかな処分となっています。
退去強制ではなく、出国命令の処分となるのは
- 速やかに本邦から出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭したこと
- 懲役または禁錮に処せられたものでないこと
- 速やかに本邦から出国することが確実と見込まれること
- 過去に本邦からの退去を強制されたこと、または第55条の3第1項の規定による出国命令により出国したことがないこと
といった条件を満たしている場合のみとなります。
強制送還が適用されるケース
強制送還が適用されるケースとしては主に以下のようなケースが挙げられます。
犯罪行為への関与
まず挙げられるケースとしては犯罪行為への関与です。
在留中に何らかの犯罪行為を行ったり、加担したりして、有罪判決を受けた場合、退去強制の対象となります。
住居侵入やパスポートの偽造は勿論、傷害や殺人、脅迫などを行えば、当然強制送還の処分が課されることになるのです。
不法滞在
また不法滞在も当然強制送還の対象となります。
不法滞在に該当するのは、在留期間が過ぎても在留している「オーバーステイ」や、そもそも在留資格を持たずに不法入国して滞在しているケースとなるでしょう。
在留資格については、以下の記事で概要を取りまとめていますので、あわせてご覧ください。
▶︎【在留資格とは】種類や取得要件、ビザとの違いなどを簡単解説
不法就労
不法就労に該当した場合も、当然強制送還の対象となります。
不法就労とは、現在有している在留資格で許可された業務以外の業務に従事してしまうケースや、そもそも就労が許可されていない在留資格で働いてしまうようなケースのことです。
強制送還の流れと費用
続いて強制送還の流れと費用について確認していきます。
強制送還の流れ
退去強制の流れ
まずは退去強制の流れについて見ていきましょう。
ステップ①:入国警備官による調査
まず強制送還に該当する疑いがある場合、入国警備官による調査が実施されます。
ステップ②:収容施設への収容
調査の結果、退去強制に該当することが濃厚であると判断された場合、収容施設へ収容されることになります。
ステップ③:入国管理官による審査
その後入国管理官によって、不法入国や不法残留、犯罪行為への関与といった事案について、審査が実施されるのです。
この審査において強制送還に該当することが発覚し、外国人側も同意した場合、ステップ⑥に移ります。
ステップ④:特別審理官による口頭審理
もしステップ③において、外国人側から異議が申し立てられた場合、特別審理官による口頭審理に入ります。
口頭審理の結果、やはり強制送還に該当することが発覚し、本人も同意すれば、ステップ⑥へと進んでいくことになるのです。
ステップ⑤:法務大臣による採決
ステップ④についても異議がある場合、法務大臣への異議申し立てが実施されることになります。
法務大臣が異議について無効とした場合、退去強制の手続きが決定されます。
ステップ⑥:退去強制令書の発布
退去強制が確定し、外国人本人も異議がない場合、退去強制令書が発布されます。
発布後は速やかに退去強制されることになるでしょう。
出国命令の流れ
出国命令の流れとしては以下の通りです。
ステップ①:入国警備官による調査
自ら出頭してきた外国人に対して、事実関係の調査を実施します。
ステップ②:入国管理官による審査
その後入国管理官による審査が実施され、出国命令に該当することが認定された場合、主任審査官へと引き継がれます。
ステップ③:主任審査官による出国命令
入国管理官から引き継いだ主任審査官は、出国期限を定め、日本からの出国を命じます。
もし外国人が出国命令に従わない場合は、退去強制の対象へと切り替える形になるのです。
強制送還に掛かる費用
強制送還に掛かる費用としては、3つのパターンがあります。
自費出国
外国人が自力で渡航費を負担し、出国するパターンとなります。
外国人本人に退去の意志と出国に必要な財力がある場合は、基本的に自費出国とする形になります。
運送業者の負担による出国
強制送還される外国人が来日する際に利用した運送業者が負担するパターンもあります。
運送業者が外国人の上陸時に、「退去強制の理由となる事実がある」と明らかに知っていた場合などは、こちらのパターンとなるでしょう。
国費送還
国が送還費用を負担するパターンです。
帰国費用を用意できない外国人が対象である場合や、人道的な理由により早期帰還が必要であると判断された外国人が対象である場合に、国費送還となるケースがあります。
強制送還を回避するには
ここまで強制送還について詳しく解説してきましたが、強制送還を回避するにはどうすればいいのでしょうか。
強制送還を回避するには、外国人本人が
- 在留資格で許可された活動以外には従事しない
- 犯罪行為をしない、関わらない
- 在留資格の更新手続きなどを適切に実施する
といったことに注意して在留する必要があります。
また企業としても、雇用した外国人労働者が強制送還にならないように、在留カードや資格外活動許可をしっかり確認するといった取り組みを実施しなければなりません。
万が一強制送還に該当するような外国人労働者を雇用してしまった場合、雇用した企業側にも罰則などが生じるケースがあるので注意しましょう。
なお、企業側への罰則については、以下の記事で詳しく解説していますので、しっかりと確認しておきましょう。
▶︎【不法就労助長罪とは】成立要件や防止方法などをわかりやすく解説
強制送還後の再入国について
強制送還された後、当該外国人は二度と入国できないのでしょうか?
結論として、再入国は可能です。
強制送還後、当然一定期間は再入国が禁止されます。
この再入国が禁止される期間のことを「上陸拒否期間」と呼ぶのです。
上陸拒否期間は、退去強制か出国命令かによって異なり
- 退去強制の場合:退去強制の日から5年(2回目以降は10年)
- 出国命令の場合:出国の日から1年
となっています。
上記の上陸拒否期間を過ぎた後の再入国は可能となります。
外国人労働者を適切に雇用するには
ここまで見てきたように、強制送還は外国人労働者を雇用する企業にとってもリスクを伴うものです。
そこで最後にこういったリスクを回避し、適切に外国人労働者を雇用するためのポイントについて確認していきましょう。
外国人雇用サービスセンターを活用する
まず挙げられるのは外国人雇用サービスセンターを活用するということです。
外国人雇用サービスセンターとは、日本での就業を希望する外国人留学生や外国人労働者の就職・転職を支援する機関となります。
厚生労働省が設置している機関ですので、入管法や外国人労働者に関する規定を熟知した上で、外国人労働者の採用や雇用管理などに対する助言・支援を無料で提供してくれるのです。
そのため強制送還などを含めたリスクも最小限にした上で、外国人労働者の雇用に取り組むことができるでしょう。
ただし、全ての都道府県に設置されているわけではなく
- 東京都
- 愛知県
- 大阪府
- 福岡県
の4つの都府県だけにしかないので、全国の企業が利用できるわけではありません。
外国人雇用管理アドバイザーを活用する
続いて紹介するのは、外国人雇用管理アドバイザーの活用です。
外国人雇用管理アドバイザーは全国のハローワークに設置されており、外国人労働者を雇用する上で企業が抱える悩みなどを相談できる機関となります。
全国に設置されているため、外国人雇用サービスセンターを利用できない地域の企業でも利用できるようになっています。
外国人雇用サービスセンターと同じく、入管法などに精通したアドバイザーから、外国人労働者の雇用やマネジメントについてアドバイスを受けることができるので、適正な雇用に取り組むことができるでしょう。
外国人雇用サービスセンターと同じく、無料で相談することができるので、是非利用してみましょう。
外国人労働者専門の人材紹介サービスを活用する
最後にご紹介するのは、外国人労働者を専門としている人材紹介サービスを活用するというものです。
外国人労働者を専門とした人材紹介サービスを活用することで、優秀な外国人労働者を紹介してもらえるだけでなく、面接のサポートや採用活動に対してのアドバイスといったサポートも受けることができます。
在留資格などの入管法についての知識提供なども受けることができる上、採用工数も削減できるため、効率よく外国人労働者の雇用に取り組むことが可能です。
特に初めて外国人労働者の雇用に挑戦する場合、強力なパートナーとなってくれるでしょう。
まとめ
今回は外国人の強制送還について解説してきましたが、いかがでしたか。
外国人労働者の雇用を検討されている企業は、強制送還などのリスクをしっかりと理解した上で取り組む必要があるため、是非この記事を参考にしていただければと思います。
また当社は最後にご紹介した外国人労働者を専門としている人材紹介サービスを提供しております。
人材紹介サービスは勿論、雇用におけるアドバイス提供や受け入れ体制の構築支援なども行っておりますので、是非お気軽にご相談ください。