沖縄県で介護施設の出店数No1を誇る、株式会社ベストライフ。人手不足が特に深刻と言われている介護業界において、外国人を一切活用せず、また有資格者100%の人材採用及び離職率5%という経営を成し遂げています。今回は、前後編にわたり同社代表取締役の西川社長に、介護事業における人材の採用・定着施策についてお伺いしてまいります。
なお、YouTubeでもインタビューを公開していますので、ぜひあわせてご覧ください。
株式会社ベストライフ
代表取締役 西川 雄太
1984年生まれ。関西大学経済学部を卒業後、2008年株式会社ベンチャー・リンク入社。社内で自らが立ち上げた新事業で2012年に全社でトップセールスとなる。2013年、同社を退職し沖縄へ移住。株式会社ベストライフを創業し、介護業界に参入。現在、通所介護事業【リハビックス】12事業所、訪問看護ステーションを2事業所、沖縄脳卒中リハビリセンター【ホコトレ】2事業所を運営し、沖縄県で最多の拠点数を構える。趣味はゴルフとピアノ。
設立10期で沖縄県No1の介護事業者に
ーー御社の事業概要をお伺いしてもよろしいですか?
2013年、沖縄で創業し、現在は10期目になりました。
事業としては、リハビリ特化型のデイサービスを直営12拠点、フランチャイズで1拠点運営しています。また、訪問看護ステーションを3拠点と、いわゆる保険適用外の脳卒中のリハビリ施設を2拠点、合計18拠点の介護施設になりますね。おかげさまで、沖縄県では最大の介護事業者になることができました。
ーー沖縄No1ですね!ちなみに、西川社長の自己紹介もお願いできますか?
大阪の大学を卒業後、新卒でベンチャー・リンクに就職します。当時は東京へ配属されたので、関西から東京へ出ていく形になりました。ベンチャー・リンクでは、貴社の中村社長と同期で、お互いに営業を丸5年近くやっていました。その後は、とあるご縁を契機に、先ほどご説明したような事業をやることになり、2013年に沖縄へ移住しました。
従業員が濃厚接触者になり、一部の店舗が回せない状況に
ーーコロナ禍での経営はどんな感じでしたか?
私の肌感覚ですが、介護業界は思ったほど大きな影響を受けていないと思います。これは全国的にそうだと感じています。
新型コロナウイルス感染症が流行し始めた当初は、デイサービスを使われている利用者様が感染のリスクを考え、自宅待機されるんじゃないか、そういった予測がなされていました。結果として、デイサービスの経営へ直撃し、多くの介護事業者が大変なことになるんじゃないかと。
ところが、介護事業の許可を出している都道府県から、コロナ禍においてもなるべく平常運転するようにとお達しがきました。介護施設は「社会機能を維持するため、社会インフラ的な機能になっている」ので、なるべく休業しないようにとの判断だったようです。
2020年の春頃は、飲食店やマッサージ屋など、いわゆる接客を伴うサービスを提供する事業者はとりあえず自粛するっていう風潮があったじゃないですか?それと同じように、弊社もデイサービスは一部自粛して閉めていました。こんなコロナ蔓延していて大変なのに、「デイサービスなんかやったら悪だ」みたいな感じで。
自粛する店舗が増え始めてすぐに、役所からもう店閉めるなという通達がきました。そういう通達が役所から出ると、「じゃあ通常通りオープンしなきゃいけないんだ」って当然なりますし、心配するご家族に対しても、「役所から通達出てるので安心して通所してください」って説明できました。利用者様も「じゃあ行った方がいいんだ」と安心してくださいましたし、何ヶ月も自宅にいるとやっぱり足腰も弱くなったりしちゃうんで、むしろ利用者側の要望もありデイサービスの利用者はそこまで減らなかったですね。
ーーそれは全国的に同じような状況下だったんですか?
そうだと思います。
一番影響があったのは、むしろ、直近のオミクロン株の時ですね。
オミクロン株が原因で利用者さんがお休みするってことは少なかったのですが、従業員のご家族がコロナ感染し、濃厚接触者になったために出勤できないという事態が頻発し始めました。
人がいないと我々は事業できないので、従業員の人手不足で一部の店舗を回せない状況になってしまいました。ここが一番コロナウイルスの影響で苦労したところですかね。
ーー今は改善の状況に向かっているんですか?
そうですね。
ただ、現時点でまだ感染症法上2類相当になっているため、どうしても隔離が義務付けられます。そのルールに従わなければならないので、従業員が感染するだけではなく、ご家族に陽性者が出てしまうと、自宅待機になって施設を回せなくなるというリスクはまだ継続中ですね。
まあ、感染者数は落ち着いてきているので、これからどんどん改善の一途を辿っていくんじゃないかなとは思いますが。
介護は今後もどんどん人手不足になっていく
ーー介護業界においては人材紹介サービスを活用されていますか?
はい、SMSさんやエムスリーさんなど、いわゆる人材紹介サービスを使うというのは、介護業界では一般的になっていますね。
一方で、弊社の場合、媒体系はあまり使わないですね。というのも、いわゆるリクルートさんのような全国求人媒体は沖縄にはまだないんですよ。その代わり、沖縄の地場の企業さんがやられている求人広告へ載せることはできますし、活用したこともありますが、正直なところ、あまりうまくいったことはなかったですね。
弊社の経験上、媒体系を活用した人の採用に関しては、結局ハローワークが一番強いという結論に至っています。意外だと思われるかもしれませんが、地方だと意外とハローワークが強いんですよ。
都心だと、ハローワークから応募してくる人自体、ちょっとやばいんじゃないかという方もいらっしゃいますが、地方は全然そんなことないですね。ハローワークって求人出すのもタダなので、求人のコスパの面から見ても、ハローワークがベストな選択肢になっていますね。
ーー専門学校が増え、担い手も増えてる印象ですが、介護業界は本当に人手不足ですか?
介護職は、現在200万人くらい国内にいるはずなんですが、今でもちょっと不足傾向と言われています。
将来的に10年・20年後に向けてお客さんが減っていく傾向にあれば、現時点で仮に介護職が足りなくても、まあ落ち着いていくだろうって見通しになると思います。しかし、現在人が足りていないのに、今後利用者がまた増えていく状況で人材がさらに足りなくなっていく。
介護福祉士・看護師・理学療法士など、職種も様々あります。また、施設へ利用者様にきてもらう通所と、こちらから利用者のところへ向かい、介護サービスを提供する訪問という種類にも分けられます。
そんな中でも、訪問型の介護人材が圧倒的に足りない状況です。
さらに追い討ちをかけているのが、結構な割合がもうすでに60歳以上なんですよね。60代の介護職員が、80歳のおばあちゃんの家に行って介護をするって体力的にきついですよね。なので、どんどん辞めていくんです。そうするとまたさらに人が足りなくなる、という負の連鎖になっていて、業界内では結構問題になっています。
ーーそれは、どうして足りない状況になっているんでしょうか?
弊社はヘルパー事業をやっていないので、そこまで詳しく把握しているわけではないですが、給料に関しては訪問型・通所型でそんなに変わらないと思うんです。
一方で、介護度が比較的重い方が、訪問型を活用されるケースとしては多いのかなと感じています。もちろん、通所型と訪問型を併用して使っている方も結構な数いらっしゃいます。例えば、週3日は自分が通って介護サービスを受けて、他の日はヘルパーさんに来てもらって介護サービスを受けるみたいな。
併用ができるので、いろんなパターンがあるんですが、どちらかというと介護度が重たい人に対して介護するっていう機会が訪問型の方が多いかもしれないですね。
なので、仕事内容は比較的ハードになってくるかもしれないです。
ーー訪問型では特定技能外国人も受け入れできなくなっています
あ、そうなんですね。外国人の受け入れって、通所型はOKで、訪問型はダメなんですね。
やっぱり、一人で利用者様の家に行くので、何かトラブルとかあった時も、基本はその時行っているヘルパーさんが対応しなきゃいけないっていうのが大きいかもしれないですね。
例えば、急に体調が急変してしまったりなど、誰もいない状況なので対応力が求められます。なので、日本語力がそれなりに求められるかもしれないですね。
また、いろんなトラブル、例えば、患者さんから襲われたりとか、要は自分の身を守らなければいけない時もあったりするので、そういうのが関係しているのかもしれないですね。
人材獲得競争を生き抜くには「規模の追求」が大切
ーー人手不足の状況下で人材獲得競争は激化すると思いますが、人材確保の施策はありますか?
求人媒体や紹介会社、自社のHPを活用するなど、そういうテクニカルな問題もあるんですが、一方で、医療も介護もそうですけど、「規模を追求する」ということが大切だと思っています。
現在介護事業者のほとんどが零細企業です。なので、1法人1個のデイサービスを運営しますよというのが大半です。
実は、このことを国はよく思っていません。昔から医療の再編統合みたいな話はずっと言われていましたが、あんまり進んでいない。
病院も同じで、小さなクリニックがたくさんあります。病院の数が世界一多い日本がコロナ禍で医療崩壊したのは、このことが影響していると言われています。例えば、医者が1名・看護師が1名しかいない病院が100個あると、病院数は多く見えますが、夜は帰って誰もいない、誰か1人が休んだだけで、休業しなければいけません。結果として、救急車のたらい回し問題に繋がりますし、何より今回のコロナのような有事に弱くなってしまいます。
それだったら、医者が100人いる病院が1個だけあった方が、よっぽど強い、というのに気がついたのがこのコロナの話で、国としても医療統合しようって話になっています。
介護も全く同じ状況です。1法人1つのデイサービスしかやってない集合体です。だから、職員が1人、例えば子供が熱出したんで私休みますって言って休んでしまったら、それだけで、今日送迎する人いなくなってしまうんですよね。
これは本当に脆弱なんで、やっぱり規模を追求しなきゃいけないですよね。会社の規模を大きくしていくほど、職員がいくら休んでも、代わりの職員を他店舗から連れてくることもできます。そういう意味だと、休みやすさが全然違ってきますので、採用に生きてきます。
給料に関しても、介護事業の売り上げは介護報酬なので、どこのデイサービスも基本同じサービスをしたら同じ売り上げしか上がりません。
ただし、規模が大きくなればなるほど有利に経営ができるような法律になっているので、ある程度規模のメリットが出せないと、なかなか有利に介護報酬も売り上げることが難しくなっています。
だから職員の昇給とかボーナスで転職者の希望に応えようと思ったら、企業規模をある程度追求していかないと厳しくなっていきますよね。
なので、いろいろと言いましたが、ない媒体をどうしようかっていうテクニカルな問題以外で、企業規模をそもそも追求していくっていうことも定着と採用強化には重要かなと思ってます
ーー介護事業者の方は規模を追求することを前提に経営していくのがまず重要ってことですね
重要だと僕は思いますし、それが生存戦略でもあると思います。
編集後記
今回は、株式会社ベストライフ西川社長に介護業界における人手不足の実態から人材獲得競争を勝ち抜くための戦略についてお伺いしてきました。後編では、紹介会社を活用しない形での人材募集、定着率を向上させるための採用プロセスなど、さらに深掘りしていきます。
なお、介護業界における特定技外国人の受け入れについてご検討されている方は、「【特定技能】介護分野で従事できる業務や採用方法などを解説」の記事も併せてご覧ください。