技能実習制度に代わる、「育成就労」という制度の新設が進められているのをご存知でしょうか?この制度が成立すると移行期間を経て、今の技能実習制度が廃止になる見込みです。
この記事では、この新制度である「育成就労」について、現段階で分かっている範囲で解説していきます。
技能実習制度に変わる新制度「育成就労制度」とは?
ここでは、技能実習制度のおさらい、なぜ技能実習制度が廃止されるのかなどを見ていきます。
技能実習制度のおさらい
まずは技能実習制度について簡単におさらいしておきましょう。
技能実習制度とは、
この制度に基づき発行される在留資格は「技能実習」で、国際貢献という制度趣旨から、この在留資格を有する技能実習生は「労働者」よりも「研修生」としての側面が強くなっています。
この技能実習生は、建設、製造、農業などの特定の業種(90職種165作業)で1年から最大5年間働くことが可能です。
また、技能実習制度は実習生の受け入れ方法にも特徴があり、以下の2通りがあります。
- 企業単独型:
海外の現地法人等に所属する職員を日本に呼び寄せ、技能実習を実施する方法で、海外支店や海外の取引先がある場合のみ可能
- 団体監理型:
営利を目的としない団体(通称「監理団体」)が技能実習生を受け入れ、傘下の企業等で技能実習を実施する方法
企業単独型を活用できる企業はごく一部のため、約98%が団体監理型にて実習生を受け入れています。
また、監理団体型の場合は、監理団体の他に送出し機関を利用する必要があります。
技能実習制度について、より詳細を知りたい方は以下の記事をご覧ください。
▶技能実習生って問題だらけ?制度や受け入れ方法について徹底解説!
なぜ技能実習制度は廃止される?(技能実習制度の問題点)
なぜ技能実習制度は廃止の方向に向かっているのでしょうか。それは、この制度自体に様々な問題があるからです。
技能実習制度の問題点は以下の通りです。
制度上の問題
①制度目的と実態の乖離
技能実習は本来、日本の技術移転のための国際貢献という目的で、そのためこの制度で受け入れる外国人は「実習生」という立ち位置ですが、受け入れる企業の多くは「労働者確保」という目的で活用している実態があり、この乖離が様々な問題を生んでいます。
②原則、転籍不可
技能実習生は原則として転籍ができません。しかし、実態は上記のように労働者にも関わらず、職業選択の自由がなく、不当な扱いを受ける、本人の失踪など様々な問題に繋がっています。
③帰国前提の設計
制度目的上、実習生は実習期間修了後は取得した技術を母国に移転するために帰国をしなければなりません。そのため、受け入れ企業としても長期雇用のための条件見直しなどを怠ってしまうなどの問題に繋がっています。
④登場人物の多さ
この制度の設計上、実習生を受け入れるために様々な機関や組合を介す必要があります。このこと自体は問題ではないのですが、介在する組織が多い分かかる費用なども多くなり、結果的にその負担が実習生に向いてしまうことも少なくありません。
活用する側の問題
①不当な扱いや劣悪な環境下での労働
これは受け入れ企業側の問題です。上記のような制度上の問題や、外国人だからといって、最低賃金以下の報酬や、劣悪な環境下での労働を強いたり、暴力、パワハラやセクハラなどの不当な扱いをする企業も多いのが現状です。
②悪質な監理団体や送り出し機関など
本来、実習生と実習実施者(受け入れ企業)の間に入り、双方の支援やフォローをする両者ですが、悪質な団体があるのも事実です。
監理団体においては、定められた役務を正しく提供しなかったり、送り出し機関と癒着し不当な利益を得ていたりなどの不正行為があります。
送り出し機関においては、実習生に法外な手数料や違約金を要求するなどがあります。
③実習生の失踪など
上記のような不当な扱いや、高額な手数料などが原因で実習生が失踪するケースもありますが、一方で、留学気分で技能実習生として来日し、意欲がないまま失踪してしまう外国人がいるのも事実です。
これらの制度上や活用側の問題が様々あり、海外からは以下の記事のような批判を受けているのも事実です。
また、この技能実習制度の問題に関しては、以下の弊社YouTubeでも解説しておりますので是非併せてご覧ください。
いつから技能実習制度は廃止されるの?
上記のような様々な問題から廃止(育成制度への移行)がほぼ確実な技能実習制度ですが、まだ明確な廃止の時期は決まっておりません。
ただ、育成就労の新制度に関しては、2027年までに新制度の施行を目指すと言われており、激変緩和措置として一定期間の移行期間が設けられる見込みはありますが、技能実習制度はいずれは廃止される見込みです。
技能実習制度と育成就労制度の違いは?
一度、ここで技能実習制度と育成就労制度の違いを整理してみましょう。
日本経済新聞|「育成就労」法案が衆院通過 永住取り消しに配慮規定、まなびJAPAN|【2024年3月最新】「育成就労」制度とは?技能実習・特定技能制度の改正について解説を参考にジンザイベースにて作成
上記の育成就労制度の概要は、政府の有識者会議の最終報告書などをベースに決められています。以下にて、有識者会議での具体的な提言内容(最終報告書の概要)や特定技能との関係性がどうなるのかをもう少し詳しく見ていきます。
有識者会議の提言内容(最終報告書)まとめ
先述の通り、技能実習制度には様々な問題があることから、技能実習制度及び特定技能制度の在り方を見直すための有識者会議が2022年12月から計16回にわたり開催されました。
その会議の最終報告書の概要をもとに見ていきます。
まず前提として、技能実習制度及び特定技能の在り方の見直しについては、以下のようなビジョンや方向性、留意事項をもとに話し合われました。
技能実習制度の目的と実態の乖離やそれに伴う様々な問題点は、先述の通りなので割愛しますが、上記を見て分かる通り、技能実習制度の問題点の改善と特定技能制度を活用した外国人材の確保、キャリアアップを問題視していたことが見てとれます。
上記をもとに出された提言は全部で10項目あり、それぞれを具体的に見ていきましょう。
まず1~3の項目においては、育成就労制度の目的が技能実習の国際貢献とは異なること、育成後は人材確保と外国人のキャリアアップのために特定技能への移行を見据えるものであること、それに伴い育成就労制度の受入れ対象分野を特定技能と同一にすること、分野ごとの受入れ見込数も特定技能制度と同様に設定を設定することが言及されています。
4つ目の項目では、技能実習制度では大きく問題視されていた転籍(転職)の可否についての言及です。
転籍については、
- やむを得ない場合
- 本人の意向
の2つのケースが認められることとされております。
具体的に、
やむを得ない場合とは、契約時の労働条件と実態に一定の相違がある場合や暴力やハラスメント事案等がある場合が対象となり、
本人の意向については、同一の受入れ機関での就労が1年以上、技能検定試験基礎級等及び日本語能力A1相当以上の試験(日本語 能力試験N5等)に合格していること、転籍先となる受入れ機関が、例えば在籍している外国人のうち転籍してきた者の占める割合が一定以下であること、転籍に至るまでのあっせん・仲介状況等を確認できるようにしていることなど、転籍先として適切であると認められる一定の要件を満たすものであることとされています。
さらに、実際に国会に提出された改正案では、転籍においては仲介業者への監督を強めるため、転籍斡旋に関われるのはハローワークや監理支援機関などに限定するとされております。
この項目では、これまでの技能実習生の監理・支援・保護の在り方を問題視し、新制度では各関係省庁との連携強化や、監理団体の許可要件の厳格化、受入れ企業の人数枠や体制の適正化が言及されています。
結果的に、育成就労の受入れ団体は「監理支援機関」という名称で呼ばれ、併せて任意の外部監査人の設置の義務、受入企業と密接な関わりを持つ役員の関与制限などが設けられる見込みです。
また、新制度でも、制度目的の一つである人材育成の観点から、技能実習制度同様に企業ごとの受入れ人数枠を設けつつ適正化すべきという方向性になっています。
技能実習から特定技能への移行要件は、
- 技能実習2号を良好に修了していること
- 技能実習の職種・作業内容と、特定技能1号の業務に関連性が認められること
であったので、それと比較すると特定技能への移行を見据えている新制度においては、技能実習制度とは少し異なる要件が提言されています。
また、特定技能外国人に対する支援は、支援業務の委託先を登録支援機関に限定し、支援責任者の講習受講といった要件の厳格化や、支援実績・委託費の開示などを義務付けること、本人の希望も踏まえ、特定技能2号取得に向けた特定技能外国人へのキャリア形成支援も実施することが言及されています。
7~8項目は、国・自治体の役割や他国送出し機関の在り方や日本政府の対策についてです。
現行の技能実習制度に関しては、本有識者会議での議論全体を通して、監理団体や受入れ機関による不適正な受入れ等に対する強い問題意識と、悪質な監理団体、登録支援機関、受入れ機関等の排除の必要性を強調する意見が多く示されました。
新制度ではそれらの問題を解決すべく、各所管庁の連携による不適正な受入れ、雇用の排除や、ガイドライン・キャリアプログラムの策定、適正な日本語教育の実施などが提言されています。
また、現行制度ではかねてより、高額な手数料等の徴収するなど、悪質な送出機関が存在し、技能実習生が借金など金銭的負担が強いられる旨も指摘されておりました。
そのために、新制度においてもこれまで以上に、日本政府が多くの送出国との間で新たにMOCを作成し、不適切な送出機関に係る通報や許可取消しなどの取締り強化が必要だと言及されています。
9項目は日本語能力についてです。
現行制度においては、入国段階である技能実習1号、技能実習2号及 び3号への移行時には日本語能力に係る要件は設けられておらず、また技能実習から特定技能への移行についても同様のため、新制度においてはより継続的な学習と段階的な日本語能力の向上の必要性が言及されました。
具体的には、新制度での就労開始前、特定技能1号移行時、特定技能2号移行時それぞれにおいて一定能力以上の日本語の要件が設けられる見込みです。
10項目はその他項目として、政府が新制度に向けてやるべきこと等が言及されています。
特定技能制度との関係性が強くなる?
既にご理解いただいている通り、新制度の育成就労は3年間で特定技能1号の水準へ育成するものであり、現行制度と比べても特定技能制度との関係性はとても強くなります。
特には、特定技能への移行を見据えており、新制度の対象分野と特定技能の対象分野は同一とされるため、特定技能への移行がよりしやすくなると考えられます。
育成就労制度の問題点(デメリット)は何かある?
技能実習制度の様々な問題点が大きく改善されるよう考えられてる育成就労制度ですが、デメリットはあるのでしょうか?
ここからは、育成就労制度の問題点について見ていきましょう。
受け入れができなくなる分野が発生する可能性がある
まず、問題点として挙げられるのが、現行の技能実習制度が対象の90職種165作業のうち受け入れができなくなる分野が発生する可能性があることです。
技能実習制度は作業という観点での受け入れが可能でしたが、育成就労制度ではこの作業という観点ではなく産業分野という捉え方になるため、上記のような問題が発生する懸念があるのです。
しかし、特定技能制度対象分野の追加と拡大が閣議決定されたことにより、以下の分野の追加・拡大される見込みのため、上記の懸念は一部緩和されます。
特定技能に追加となった分野
- 自動車運送業分野
- 鉄道分野
- 林業分野
- 木材産業分野
特定技能で新たな業務が追加される既存分野
- 工業製品製造業分野
- 造船・舶用工業分野
- 飲食料品製造業分野
送り出しの費用を受け入れ企業が負担することになる?
新制度では、これまで外国人側が負担をしていた送り出し機関への手数料を、受入れ機関と外国人で適切に分担することになる見込みです。
外国人技能実習機構及び地方出入国在留管理局の調査では、技能実習制度で母国の送り出し機関に支払う手数料額は平均でも1名あたり50万円以上です。
仮に、これらを受け入れ企業側が支払うとなると、受け入れ企業側の負担が大きくなります。
また、悪質な送り出し機関などであれば、この双方で分担の取り決めを悪用して双方に二重に費用を請求するケースなども考えられるでしょう。
今まで技能実習生に頼ってきた企業にはどのような影響が?
新制度が始まった場合、これまで技能実習生を受け入れてきた企業にどのような影響があるか見ていきましょう。
地方企業ではより大きな影響が出る可能性が。。
有識者会議の留意事項として、人材不足が深刻な地方や中小零細企業へも人材確保が図られるように配慮するとありますが、目立つような解決策は提言がされておりません。
新制度では転籍制限が解除されることを考えると、好条件を求めて転職をする外国人が増える可能性があります。
地方企業や零細企業においては、費用と時間をかけて外国人を呼び寄せたにも関わらず、1-2年で辞められてしまうリスクがより高くなるでしょう。
都心・高待遇企業が転籍先の受け皿に?!
上記の一方で、都心、高待遇の企業が転職先の受け皿になってくるでしょう。
有識者会議の最終報告書でも、新制度は、制度目的の一つである人材育成の観点から技能実習制度と同じく企業ごとの受入れ人数枠を設ける方向性になる見込みのため、受入れ可能な人数が多い都心の大手企業などに育成就労外国人が集中してしまう可能性もあるでしょう。
特定技能制度の活用も検討するべき!
育成就労は、技能実習制度の様々な問題を改善した制度にはなる見込みですが、採用までにかかるコストの面や受入れ可能人数枠などの面からも、はじめから特定技能制度を活用した外国人雇用も検討することをオススメします。
念の為、特定技能制度の概要を以下に記載します。
特定技能制度は、日本の労働力不足対策として、人手不足が著しい特定産業分野の12分野で、外国人労働者の受け入れを促進することを目的に2019年4月に導入された制度です。また、先述の通り、4分野3業務が新たに追加される予定です。
特定産業分野において一定の「技能」と「日本語能力」を有する労働者に対して許可がなされます。
この制度により、これまで「技術・人文知識・国際業務」などの就労ビザでは従事できなかった、例えば、外食業・建設業・農業・宿泊業・製造業などの単純労働を含む作業に従事させることが可能になりました。
特定技能の在留資格は、特定技能1号と2号という2つの区分が存在し、特定技能1号は最大5年間の滞在が可能、特定技能2号はより高度な技能を有する者に与えられ、在留期限の制限もなく家族の帯同も認められています。
特定技能制度についての詳細は以下の記事を御覧ください。
▶在留資格「特定技能」とは?技能実習との違いも含めてわかりやすく解説!
まとめ
この記事では今後制定される見込みの育成就労制度について、技能実習制度との違い等を中心に見てきましたがいかがでしょうか。
技能実習制度の様々な問題点が改善される予定の育成就労は、特定技能への移行を見据えた在留資格になります。
技能実習制度もゆくゆくは廃止される予定であることから、外国人採用においては特定技能での採用も検討されると良いでしょう。
外国人採用を検討している、特定技能について詳しく聞いてみたい、、、などがございましたらお気軽に当社にご相談ください。