医療・介護分野における人材不足が深刻化する中、八王子市で病院・老健施設等を運営する医療法人社団光生会「平川病院」では、40名近い外国人材が活躍しています。特徴的なのは、中国、ベトナム、インドネシア、ミャンマーと、その国籍が多岐にわたる点です。技能実習制度から特定技能への移行期にある今、同院では特定技能での採用にシフトしつつ、日本語力と介護経験を重視した採用を進めています。
今回は看護部長の真島様と事務部門ご担当の音田様に、多国籍化が進む医療現場における人材活用の実態と、そこから見えてきた課題についてお話を伺いました。
看護補助業務は外国人材に頼らざるを得ない
ーー貴社について簡単にお伺いできますでしょうか?
真島部長:
当院は病院、老健施設、診療所、そして美山ヒルズという精神科のグループホームを運営しています。全て、八王子市内にございます。
老健施設では、包括支援事業を展開しており、東京都から委託を受けた「高齢者安心相談センター」を八王子市内で3ヶ所運営しています。これらのセンターでは、高齢者や障害者の方々からあらゆる相談を受け付け、支援を行う役割を担っています。
従業員数については、常勤が298人、非常勤を含めると360人ほどが在籍しています。これは平川病院単体の数字となります。
ーー現在何名の外国人を採用していますか?
音田さん:
現在、外国人材については、栄養科も含めて40名弱が在籍しており、そのうち介護福祉士が16名、看護師が3名います。ベトナムの方々は、以前の経過措置で学校を卒業すれば介護福祉士の資格を取得できる制度を活用した方々です。また、技能実習で入職し、日本語能力的にはN2レベルなのですが、4年目で介護福祉士国家試験に合格した方もいます。
看護部では中国、ベトナム、インドネシア、そしてミャンマーの方々が勤務しています。技能実習と特定技能で受け入れてましたが、最近は特定技能にほぼ一本化してきてますね。栄養科では中国とインドネシア、ネパール国籍の方を中心に採用しています。
ーー特定技能外国人へはどのような業務をお任せしていますか?
真島部長:
外国人材の業務内容については、看護補助者として、医療行為のない清潔ケア、移動介助、入浴介助、食事介助など、基本的な介護業務を担当しています。病院という特性上、医療行為や投薬に関する業務は一切行わせていません。これは特別養護老人ホームなどの施設とは異なる点です。
音田さん:
当院の栄養科では、入院患者さん個々の病態に応じた適切な栄養サポートを実施するため、当院直営方式で厨房を運営していますが、外国人材の業務内容としては、厨房業務全般(調理・盛り付け・仕込み・食器洗浄など)をお任せしていますね。特定技能の外食試験合格者を雇用する形ですね。
ーー外国人を採用するに至った背景は何かありますか?
音田さん:
外国人材の受け入れは、2018年ごろ、中国人看護師の採用が初めてでしたね。それ以前にも、グループ内の別施設でEPAでの受け入れ実績があり、当院でも院長の方針で外国人雇用を推進することになりました。
2019年ごろからは技能実習生の受け入れを開始しましたね。技能実習生の場合、介護はN3レベル以上の有資格者のみが対象となりますが、栄養科については、N4レベルの方の受け入れとなり、結構大変でしたね。当時は技能実習における介護業界での受け入れがスタートしたばかりで、面接についてもベトナム等の現地に赴いた上で実施してました。
真島部長:
人材確保の面では、日本人の看護補助者の採用が非常に困難な状況が続いています。20~30年前は近隣地域からの応募も多かったのですが、徐々に減少し、募集を出しても全く集まらず、すでに働いているスタッフもかなり高齢化してきています。
現在では当院でもそうですし、他の病院でも看護補助業務は外国人材に頼らざるを得ない状況となっていますね。
特定技能の採用の場合、待遇面では地方の方が人がいない影響か夜勤回数が多く、結果として手取り収入が高くなるケースも散見されるのですが、金銭よりも、友人が多数いることや利便性を求めている方が多いんですかね。都会を目指して転職するケースが多く、比較的応募数については確保できてると思います。
当院では夜勤を4~5回程度に抑えられるくらい人材が確保できているので、外国人スタッフからはむしろ夜勤を増やして欲しいという要望もあるくらいです。
ーーなぜ今回ジンザイベースに求人をご依頼いただいたんですか?
音田さん:
元々中国人の方をご紹介いただける組合さんと長くお付き合いしていたのですが、コロナや円安の影響で日本に来たいという方がなかなか集まらなくなってしまいました。そこで、院長に他の国籍の方の採用許可を得て、他のエージェントを探すようになり、YouTubeでジンザイベースを拝見して、日本国内在住の語学力の高い方を採用できるという部分が気になって連絡いたしました。
現在は、ジンザイベースさんから5名のインドネシア人材を、栄養科で外食分野のネパール人材を1名採用し、看護部において追加募集のご依頼中ですね。
特定技能は転職が自由のため、心配だったが...?
ーー外国人材の採用を進める際に社内から不安な声とかはなかったですか?
真島部長:
特に現場からの不安な声はなかったですね。
ただ、実際に配属になってからは、仕事に取り組む姿勢や価値観などが若干ずれたり、言語がうまく通じない等で、多少の負荷はかかっていましたね。まあ、そういったものはしょうがない部分があるのですが。
翻訳機器の導入を全病棟で進めたりはしたのですが、精度がまだまだのため、結局スタッフ同士で大事なことはゆっくり、簡単な日本語でコミュニケーションを取るようにしましたね。特に、夜勤から日勤の方への申し送り事項など、重要な日本語を日本人同士のスピード感で話しても、外国人材はついてこれないですからね。ある程度は受け入れ側が配慮していく必要性はあると思います。
ーーいろんな国籍の方がいらっしゃいますが特色はありますか?
音田さん:
言語面では、特にベトナムの方々は発音の違いから日本語の習得に苦労される印象があります。一方、インドネシアの方々は日本語の理解力が高く、日本語習得のスピードについては比較的早いと感じています。
ただ、インドネシアの方の採用については、いろんなエージェントさんの話を聞くとなかなか難しいと聞きますが、当院はジンザイベースさんからの紹介に加えて、すでに働いている人材からの紹介を通じて採用できています。いわゆるリファラル採用という形ですね。
隣接する施設でも、東京都のインドネシア人材の事業で、特定技能での採用を他社経由で検討していますが、現地での日本語学習費用として60万円程度かかるようです。これに加えて人材紹介料や月々の登録支援費用もかかりますので、ちょっとどうなのかなとは思っていますが...
ーー国籍が多岐にわたるといろんなトラブルが発生しそうですが
真島部長:
多国籍の職場環境において、国籍間でのトラブルはほとんど見られませんね。
ただし、指導内容の解釈の違いや、日本人スタッフと外国人スタッフの間での認識の違いについては、都度調整が必要な場面は、これは日本人でも同様なのですが、やっぱり発生してきます。
そういった場合は、迅速に当事者と話し合いの場を持ち、解決していくようにしてますね。
ーー特定技能と技能実習双方受け入れていらっしゃいますが違いは感じますか?
真島部長:
本音ベースだと、技能実習生の方が、日本語力という観点から、大変だった印象ですね。おまけに、転職ができないという制度なんですが、一時帰国中に帰ってこなくなったり等、実際に現場の介護業務の大変さから途中で退職してしまう方は多い印象です。
音田さん:
ただ、特定技能に関しては、転職が自由に認められているので、その点が若干心配ではありますね。当院ですと、まだないのですが、他の施設さんのお話とかを聞くと、ちょくちょく転職していらっしゃると聞くので...
一方で、技能実習制度については今後廃止に向かっていくとのことですので、一旦当院としては、特定技能での採用にシフトしていく方針です。特に、現地での日本語教育や介護研修を受けた人材の採用も検討していますし、新たな取り組みとして、ミャンマーからの採用を予定しています。
ただし、未経験者の場合、特に同じ母国語を話す先輩スタッフがいない環境では教育面での課題が予想されるので、まずは経験者の採用を優先し、その後未経験者の受け入れを段階的に進めていく予定です。
経験者採用に力を入れることで、育成コストを最小化
ーー教育体制についてはどのようになされてますか?
真島部長:
今回、ジンザイベースさんから採用したインドネシア人材は、元々介護の実務経験をお持ちで基本的な支援技術は身についていたので、そこまで育成に苦労はしなかったですね。
代わりに、主に病院特有のルールや業務フローの指導に重点を置いています。例えば、グループホームでは5、6人の利用者様を担当するところ、当院の病棟では40人程度の患者様がいらっしゃるため、その規模の違いへの適応が課題となっています。
特筆すべき点として、介護施設での勤務経験がある方々は接遇面で非常に優れています。むしろ当院の職員が見習うべき点も多々あり、特に言葉遣いの面では、病棟スタッフへの良い刺激となっていますね。
音田さん:
夜勤については、日本語能力とスキルを見極めた上で段階的に導入しています。具体的には、日本語能力がN2程度になった方から、夜勤を任せていく、というような形で。
現在では多くの外国人スタッフが夜勤をこなせるようになっています。
ーー外国人材の定着についてはどのような取り組みをなされてますか?
真島部長:
外国人材の定着については、特に地方出身の方々は、同国人コミュニティの少なさからストレスを感じるケースがあります。そのため、当院では休暇取得について柔軟な対応を心がけており、以前は2週間だった帰国休暇を、現在では3週間、場合によっては1ヶ月程度まで認めています。
また、技能実習を終えて、特定技能に切り替えるタイミングになっても、日本語能力がなかなか上達しない方も中にはいらっしゃいます。
そう言った場合は、同じ国籍の先輩がいる病棟へ配属するように調整することで、乗り越えていますね。「多少母国語が混じってもいいから、サポートしてあげて」と日本語が上手な先輩スタッフに協力してもらっています。
編集後記
本日は医療・介護事業を展開する医療法人社団光生会「平川病院」の真島部長と音田様に、外国人材の採用・育成における取り組みについて、貴重なお話を伺うことができました。
技能実習制度から特定技能への移行期にある中、中国、ベトナム、インドネシア、ミャンマーと、様々な国籍の方々を受け入れてこられた経験から、各国の特徴や課題について具体的なお話を伺えました。
医療機関における外国人材の活用をご検討の企業様におかれましては、単なる人手不足の解消としてではなく、多様な価値観を受け入れ、時には日本人職員の働き方を見直すきっかけともなりうる点にも着目いただければと思います。
また、採用方法についても、平川病院様の事例を参考に、現地での採用や国内在住者の採用など、様々な選択肢がある中で、自院の体制や教育リソースを考慮した上で、最適な方法をご検討いただければ幸いです。