飲食業界における人材不足が深刻化する中、外国人材の活用は業界の喫緊の課題となっています。国内外で店舗展開する飲食企業「オイシーズ」では、現在70名以上の特定技能外国人を雇用し、100名を超える勢いで採用を進めています。今回は同社人事部長の田中大督氏に、多国籍スタッフが活躍する現場の実態と、採用・育成・定着のポイントについてお話を伺いました。
多国籍な外国人材が店舗運営を支えている

ーーー貴社の事業について簡単にご共有いただけますでしょうか?
田中部長:
オイシーズは2016年10月に設立された会社で、現在、天丼・天ぷらの「金子半之助」、つけ麺やラーメンの「つじ田」、「田中商店/田中そば店」という3つのブランドの飲食店舗を運営する外食事業、これらのブランドを活用し「金子半之助」の中食事業(デパ地下や駅ナカでのお弁当販売)や「つじ田」などのデリバリー事業(加盟店が宅配やテイクアウトを運営)などを展開しています。
外食および中食の実店舗数は国内外で120店舗ほどあり、国内が約90店舗、海外が30店舗となっています。全国各地で店舗展開をしている飲食企業です。
ーーー外国人の方は具体的に何名ほど在籍されていますか?
田中部長:
特定技能で現在約70人ほど在籍しており、それ以外の在留資格の方がプラスで10数名いる状況です。もうじき100名を超える勢いですね。
ミャンマーの方が一番多く、その他にもベトナム、インドネシア、中国など、東・東南アジアを中心とした国籍の方々に来ていただいています。特に「つじ田」ではミャンマー出身のスタッフが多く活躍しています。
ーーー外国人を雇用するに至った背景や直接的な要因はありますか?
田中部長:
元々、現在の3ブランドは2017年にM&Aでグループ化したもので、それぞれのブランドが別々の創業者によって立ち上げられたという経緯があります。例えば、「つじ田」は創業者の方が開業し、当社にM&Aされる時点で既にミャンマーの方が何名か働いていました。現在も永住権を取得して長く働いている方もいますね。
つまり、グループになる前から外国籍の方が日常的に在籍されていたというのが一つの大きな点です。
また、飲食店は一般的には不人気業種という側面もあり、なかなか日本人も含めて人が集まりにくいという性質があります。アルバイト領域でも普通に募集しても人が集まりづらいので、外国籍の方に領域を広げるのは自然な流れでした。
既にミャンマーの方々が在籍していたことで、受け入れ体制も含めて特段問題なく進められたという背景もあります。店舗展開と人材採用のスピード感と共に、外国籍の従業員も増えていったという経緯です。
新規出店から逆算し、国外から計画的に呼び寄せる

ーーーどのようなルートから雇用されていますか?特定技能ですと国内外から雇用できますが
田中部長:
現在、登録支援機関複数社と取引があるので、基本的にはそちらを経由して人材を採用しているケースが多いです。主に国外から採用するパターンで、直近でもミャンマーから毎月数名入社している状況です。
もう一つのルートとしては、既に当社で働いている外国籍の従業員からの紹介も何名かいますね。既存社員が自分の知人や友人を紹介するので、会社の文化や働き方をある程度理解した上で入社するため、ミスマッチが少なく助かっています。
ーーー計画的に採用活動されているのですね
田中部長:
年間の出店計画等を想定し、その上で採用スケジュールを立て、計画的に採用しています。「〇〇日に〇〇へ出店が決まっている」などという場合は、大体1〜2ヶ月前に入社できるように段取りして、紹介会社にお願いするという流れです。ビザの審査の関係でずれることもありますが、ほぼ計画通りに進められています。
もちろん、日本国籍の方も求人媒体やリファラル採用など力を入れてはいますが、外国籍含めて国籍に関係なく同時並行で採用を進めています。
ーーー外国籍従業員を国外からの採用に絞っている理由は何でしょうか?
田中部長:
期間の問題が大きいですね。特定技能1号は5年という在留期限があります。私たちとしては長く働いていただきたいので、本人の希望が前提ですが、特定技能2号を視野に入れています。
現状の特定技能制度だと、特定技能2号試験を受けるためには、一定期間の指導経験や日本語能力N3の取得が必要です。在留期間が5年ある中で、別の会社で2年働いた後に当社に入社するよりも、最初から5年間働いてもらえる方が2号試験合格を前提に考えた時には、望ましいと考えています。
国内採用だと、他社で働いた期間があって、残りの在留期間が少ないケースがあるので、そこまで国内採用にこだわっていないというのが実情です。
また、当社のような企業規模になると、集団採用で複数名同時に受け入れて教育する方が効率的です。国外からの採用は計画的に進めやすいという利点もあります。
国籍で区別しない育成方針の結果、外国人マネージャー・店長も

ーーー人材を見極めるコツはありますか?
田中部長:
当社の場合、現地に行って面接することはなく、基本的には紹介会社経由で紹介いただいた方とリモートでオンライン面接をすることが大半ですが、正直、実際に一緒に働いてみないとわからない部分はあります。
面接に向けて送り出し機関や登録支援機関が事前準備(候補者との面接練習など)を行っているケースもあるので、実際に入社してみると、面接時よりも日本語が話せないと感じることもあります。
ただ、一定の日本語のレベルは必要だと思っていますので、質問の仕方や内容には気をつけつつ、「N3レベルの会話力」を基準に合否判定の参考にしています。
逆に、最初はコミュニケーションが取れなくても、半年もすれば驚くほど日本語が上達する方など、入社後に急成長される方もいるので、判断が難しい部分は多々あります。
ーーー入社前後に社内でネガティブな反応などはありませんでしたか?
田中部長:
元々外国籍社員が多数いましたので、ネガティブな反応はないですね。
店舗によっては、配属社員全員が外国籍というところもある一方、日本人の従業員が入って、コミュニケーションでうまくいかないこともありました。そのため、店舗ごとの配属人材の割合をどうやってコントロールしていくかというような議論はありますが、逆を言うとそのくらい外国籍人材が当たり前の社風になっています。
加えて、ミャンマー出身のマネージャーがグループ全体で3名おり、その3名は全員が永住権を持って働いています。特定技能を取得した方でも店長や副店長といった役職についている人もいます。国籍に関係なく業務・役割を任せているので、冒頭お伝えしたとおりネガティブな反応は皆無に近いかもしれません。
ーーー率直に特定技能を受け入れてみてどうですか?
田中部長:
現在お付き合いしている登録支援機関の対応が非常に良く、月1回定期的に人事部と面談をしてくださいます。四半期に1回の面談に向けて、「ここが黄色信号かもしれない」など細かくフィードバックをもらえる関係性があり、助かっています。特に生活面での困りごとなど、私たちが気づきにくい点も含めてフォローしてくださるので、社内だけでは対応しきれない部分をカバーしてくれています。
もう一つ重要なのは、彼らが日本へ来る背景です。日本に来るということは、母国の家族を養うという目的があることが多く、日本人が海外にワーキングホリデーで行くのとは意味が違います。そういったバックボーンがある中で、真面目に一生懸命働いてくれる方が多いという印象です。
ーーー入社後の教育で何か特別な取り組みはありますか?
田中部長:
当社の場合、あえて日本人と外国籍の方で育成方針を分けていません。
なぜかというと、特定技能2号評価試験がポイントになるからです。特定技能2号評価試験では、テスト問題に日本語のルビが振られておらず、日本語を理解していないと問題自体がわかりません。そのため、日本語力を向上させる必要があるのです。
日本語力を向上させるには、日本人・外国人区別せずに育成した方が、外国籍の方も日本語が身につくと考えています。もちろん、動画マニュアルなど、目で見てわかる仕組みは用意していますが、多言語マニュアル化はしていません。
ーーー登録支援機関の選び方についてアドバイスはありますか?
田中部長:
正直、やってみないとわからない部分が大きいですね。当社も複数の登録支援機関とお付き合いしてますが、四半期面談以外にもこまめに連絡してくれる支援機関がある一方で、何もフォローがない支援機関まで様々です。
月額のランニングコストが安くても、安かろう悪かろうで、フォローが十分でないこともあります。特定技能外国人の受け入れは、単なる人手不足の解消ではなく、生活全般のサポートも含めた長期的な関係構築が重要なので、金額だけで判断するのは気をつけた方が良いと思います。
一つの方法としては、同業の人事担当者や経営者同士のネットワークから良い登録支援機関を紹介してもらうのが良いかもしれませんね。
ーーー将来的に支援業務を内製化する予定はありますか?
田中部長:
出入国時の対応や各種ガイダンス等、母国語で説明しなければならず、現行のルールを満たそうとすると、様々な国の通訳人材を採用する必要があるので、今は現実的ではないと思っています。
一方、当社はミャンマー人比率が高いですが、ミャンマーの現地情勢も不安定な中で、ミャンマーだけに絞って内製化するのもリスクがあります。これは、ミャンマー以外の国に絞っても同様です。
ただ、既に内製化している同業他社からも話を聞いてはいるので、内製化を進めるイメージは朧げながらできています。頭の片隅に今後の検討課題として常にあるので、現状の課題解消施策が固まったタイミングで、内製化に踏みきる可能性はゼロではありません。
覚悟を持っている分、頑張る人も多い

ーーー「すぐに辞めてしまう」というイメージがありますが実際どうですか?
田中部長:
本当に人によりますね。家族の事情等で急に帰国される方などもいらっしゃいます。
一方で、一定のマネジメント業務を経験しないと特定技能2号に移行できないことを考えると、特にずっと在住したいと考えている人ほど、転職を重ねるよりも、一つの会社で長く働いた方が良いと、理解している気がします。もちろん辞める方はいらっしゃいますが、個人的には日本人とあまり変わらないという印象です。
ーーー早期離職を防ぐための独自の取り組みはありますか?
田中部長:
入社初日にオリエンテーションを行い、その日に懇親会を設けて担当事業のマネージャーも交えて歓迎します。加えて、その後1週間は人事部がフォローし、3ヶ月後にはフォローアップ研修を実施し、同時期に入社した人たちを再び集めてアウトプットし合う機会を設けています。
特定技能の方に対しては、チャットのグループを作り、特定技能2号試験のお知らせなどの情報共有やフォローをしています。孤立感を感じることなく、常に会社とつながっているという安心感を持ってもらえるよう工夫しています。
今後やりたいこととしては、多言語マニュアルとは逆で、日本語教育を提供できないか、模索しています。人によっては、特定技能2号試験の日本語が難しいと感じていらっしゃるので、日本語をしっかり勉強する機会を会社としても後押ししたいと考えています。現在、登録支援機関と連携して、日本語教育の仕組みを検討しているところです。
ーーー店舗間の異動についても頻繁に発生していますか?
田中部長:
出店が多いので、異動はそれなりにあります。新店がオープンするときは、まずその立ち上げ店長を決め、次に2番手、3番手のスタッフを配置します。その中で外国籍スタッフが抜擢されることもあります。
異動が発生すると、当然ながら既存店から人員が移動するため、空いたポジションを埋めるための異動も発生します。外国人の比率というよりは、各店舗でのスキルバランスを考慮して人員配置を決めています。
重要なのは、異動に伴う生活面のサポートです。社宅の手配など、引っ越しをスムーズに進められるよう会社がサポートしています。社宅は原則本人負担ですが、手続きなどは会社が代行しているため、外国籍スタッフも安心して異動できる環境を整えています。
結果として、社員の店舗異動はそれなりに発生していますが、今の所大きな不安・不満は出ていないと感じています。
ーーー特定技能2号を取得するための特別な取り組みはありますか?
田中部長:
当社の場合、日本人・外国人共通の評価制度を運用しています。上半期・下半期に分けて評価を行い、適宜グレードや職位の入れ替えを行なう形です。
評価を行う中で、外国籍だからということはなく、ちゃんと評価制度に基づいたグレードの定義を満たせば昇格できるので、日本人と外国人の区別なく運用しています。
加えて、特定技能の方が副店長同等のグレードに昇進した場合、約2年経過すると特定技能2号試験の受験資格が出てきますので、一つの目標として位置付けています。
この評価制度によって成長度合いを可視化し、キャリアアップの道筋を明確にしていると同時に、特定技能2号試験の受験時期が明確になるので、間接的に寄与しているかなと思っています。
ただし、評価制度には課題もあります。例えば、「天ぷら」の業態ですと、職人的な要素が強く、習得に時間がかかるので、つけ麺など他の事業と比べて昇格スピードが遅い傾向があります。そのため、事業によって不利にならないような仕組みを現在検討しています。
ーーー外国人雇用を検討している飲食事業者へのメッセージをお願いします
田中部長:
私たちは外国籍の方と日本人を区別せずに接しています。起きる事象も日本人にもあることで、辞めることも頑張ることも同じです。
国から出てきて覚悟を持っている人が多いという印象があるので、目標を持って頑張ってくれる人も多いと感じています。言葉の壁を恐れずに、一緒に乗り越えていくことが大切です。
一昔前の日本では、コンビニの店員さんが外国人だと驚かれる時期もありましたが、今は普通のことになっています。それが今、飲食店でも外国人スタッフがいるのは当たり前になってきています。
少子高齢化が進む中で、外国籍の方々と共に生きていくのは自然なことだと思います。差別するのではなく、日本語がたどたどしくても一緒に乗り越えていけば、良い未来が描けるでしょう。むしろ今の時代に外国籍の方と共に働かないという選択肢の方が難しいのではないでしょうか。
編集後記
今回は、国内外に120店舗を展開する飲食企業「オイシーズ」の人事部長・田中様に、外国人材活用の実態についてお話を伺いました。
同社では70名以上の特定技能外国人が活躍し、特筆すべきは外国籍スタッフを日本人と区別せず、同じ評価制度で処遇している点です。「外国人だから」という特別扱いをしないことが、むしろ彼らの成長と定着につながっているという事実が見えてきました。
インタビューから明らかになったのは、言語や文化の違いよりも「共に働くパートナー」という認識の重要性です。ミャンマー出身者が店長やマネージャーを務めるなど、国籍に関わらずキャリアアップの道が開かれている環境が印象的でした。
少子高齢化が進む日本において、外国人材との協働は避けて通れません。オイシーズの取り組みは、外国人材を単なる「人手不足解消の手段」ではなく、共に成長するパートナーとして迎え入れる姿勢が成功の鍵であることを示しています。この事例が、外国人雇用に取り組む多くの飲食事業者の参考になることを願っています。
また、2025年3月28日に発生したミャンマー中部を震源とする巨大地震で多大なる被害を被った方々を支援するため、「ミャンマー中部地震被災者支援募金」を4月13日(日)まで実施しています。詳しくはこちらのプレスリリースをぜひあわせてご覧ください。