年金の脱退一時金をご存じでしょうか。この脱退一時金の制度を活用することで、外国人の方は、一定の要件を満たすことで、母国に帰国した際に納めた年金の一部を受け取ることができます。 この記事では日本の年金制度をおさらいしつつ、脱退一時金の概要やその種類、手続きの方法を簡単に解説していきます。 外国人労働者の雇用を検討されている方は勿論、脱退一時金制度の基本を押さえたい方は是非最後までご一読ください。
なお、YouTubeでも動画形式でも脱退一時金について解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。
脱退一時金ってそもそもなに?
まずは脱退一時金とは何なのかを解説していきます。
外国人労働者は社会保険に加入することが必須
「脱退一時金」制度は、日本国籍を持っていない外国人労働者が退職をし、母国へ帰国する際に、これまで日本で支払った年金保険料の一部を払い戻しできる制度です。
日本に住む場合、外国人であっても年金の加入、支払い義務があります。当然ながら、外国人労働者は、社会保険の加入条件を満たす場合には、強制加入となります。
そして、日本人同様に10年以上の年金保険料の支払いがあれば、65歳以上になると支給される老齢年金を受け取ることができますが、外国人労働者は、老齢年金の受給を待たずに母国へ帰国するケースも多く、その場合は保険料を掛け捨てにしたようになってしまうため、支払った年金保険料の一部を返金することで掛け捨てになることを防ぐことが脱退一時金の目的です。
この脱退一時金は、日本で社会保険料を支払っていた外国人が、日本国内に住所を持たなくなり、その後、再来日の可能性が未定など老齢年金の支給条件を満たすかどうかわらない場合の救済措置のため、日本国籍を有していない外国人労働者であれば、条件を満たすことで還付対象になるのです。
しかし、この制度を理解せずに「社会保険料が高いので手取り給与が減る」「いずれ帰国するのになぜ支払わないといけない」など、企業担当者様は外国人労働者から様々な質問・不満を受けることがあるかと思います。最悪、本来強制である社会保険の加入を拒否する外国人労働者も、中にはいらっしゃるかもしれません。
そのため、企業側から支給額の目安などの数字を提示しながら「脱退一時金」のことを外国人労働者へしっかりと説明し、理解をしてもらうことがおすすめです。
一点注意が必要なのは、脱退一時金は外国人が支払った保険料が還付対象となるもので、労使折半で企業が支払った分については対象にはなりません。
2021年に脱退一時金の支給上限が5年になった?
脱退一時金は、年金保険料納付済み期間をもとに計算しますが、2021年4月の法改正で支給上限年数が3年から5年に引き上げられました。
これは、3年以上の保険料納付をしていても、法改正前は最大で3年分までしか脱退一時金の対象にならなかったものが、改正後は最大5年分までに拡充されたということです。
この見直しの理由としては、「特定技能」制度が創設され、在留期間の上限が5年に延びたことなどが挙げられています。
在留資格「特定技能」については「在留資格「特定技能」とは?技能実習との違いも含めてわかりやすく解説!」で詳しく紹介しております。是非併せてご覧ください。
社会保障協定締結国出身の外国人労働者は要注意
脱退一時金を理解する際に、必ず知っておきたいのが「社会保障協定」です。
「社会保障協定」とは、外国人労働者の不利益を避けるための制度になります。具体的には、以下のような取り決めをしています。
- 「保険料の二重負担」を防止するために加入するべき制度を二国間で調整する(二重加入の防止)
- 年金受給資格を確保するために、両国の年金制度への加入期間を通算することにより、年金受給のために必要とされる加入期間の要件を満たしやすくする(年金加入期間の通算)
これにより、日本で納めた保険料は、母国で保険料を納めていたことと同じ扱いになります。
現在、日本がこの社会保障協定に署名済みなのは全部で23カ国、うち22カ国は発行済みです。このうち二重加入防止と年金加入期間の通算の両方が可能なのは19カ国となっています。
※ 詳細は日本年金機構のホームページよりご確認ください。
社会保障協定を結んでおり、かつ「年金加入期間の通算」が可能な19カ国の外国人労働者が帰国する場合は、彼らが支払った年金保険料を、
- 母国と年金加入期間の通算をし、将来受け取る
- 日本出国後に脱退一時金として受け取る
のどちらかで受け取るかを選択ができます。
ここで注意すべきなのは、外国人労働者が脱退一時金の支給を受けた場合、支給額の計算の基礎となる日本の会社で働いた期間は、母国での年金加入期間として通算されなくなるということです。
そのため、どちらで受け取りたいかを必ず確認する必要がありますので、ご注意ください。
脱退一時金はぶっちゃけいくらもらえるの?
ここからは厚生年金を例として、脱退一時金はどれくらいもらえるのかを見ていきます。
脱退一時金のざっくりとした計算方法
脱退一時金の支給額は、国民年金と厚生年金とでそれぞれ計算します。
厚生年金のざっくりとした概算支給額の計算方法は以下の通りです。
例えば、給与25万円、賞与年間50万円、年収350万円で社会保険加入期間が5年の場合、以下の計算式となります。
入社前などに脱退一時金の説明をする際は、上記の概算額にて説明してみてください。
正確な金額はどうやって算出する?
外国人労働者の退職時など、年収額が確定した際には脱退一時金の正確な金額が算出できます。
同様に厚生年金の場合、計算方法は以下の通りです。
例えば、給与25万円、賞与年間50万円、年収350万円、社会保険加入期間5年の場合、以下のような形となります。
※ 詳細は、日本年金機構のホームページをご参照ください。
脱退一時金の申請・手続き方法は?
ここからは脱退一時金の申請、手続きの方法について見ていきます。
脱退一時金の支給条件
脱退一時金には支給の条件があります。
厚生年金の場合の支給条件と支給対象外になる場合については以下の通りです。
支給条件
- 日本国籍を有しない
- 年金の加入期間が6か月以上10年未満(保険料未納期間は除く)
- 障害年金を受ける権利を持っていない、過去に持ったことがない
- 日本に住所を有していない
- 社会保険の資格を喪失してから2年が経過していない(社会保険の資格を喪失した日に日本国内に住所を有していた場合は、社会保険の資格を喪失した後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していない)
支給対象外になる場合
- 年金の被保険者となっているとき
- 日本国内に住所を有するとき
- 障害基礎年金などの年金を受けたことがあるとき
- 最後に社会保険の資格を喪失した日から2年以上経過しているとき(ただし、社会保険の資格を喪失した日に日本国内に住所を有していた場合は、社会保険の資格を喪失した後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年を起算)
具体的な申請手続き方法
脱退一時金の申請手続きは、請求者(外国人労働者本人または本人から委任を受けた代理人)が、脱退一時金請求書および添付書類を日本年金機構へ提出します。
また、脱退一時金の支給条件として「日本に住所がない」という条件があるため、日本を出国した後に手続きを行う必要があります。
手続きの流れとしては、以下のようになります。
- 日本国内で、国民年金・厚生年金保険の被保険者資格を喪失、住民票の転出届、脱退一時金申請書や添付書類準備
- 出国・帰国
- 申請(請求)手続き
なお、申請書類の提出先・方法・時期は以下の通りです。
表引用:日本年金機構|脱退一時金を請求する方の手続きより
脱退一時金の申請に必要な書類
脱退一時金の請求書類は「脱退一時金請求書」「添付書類等」の2つを提出する必要があります。
脱退一時金請求書
脱退一時金の請求書は外国語と日本語が併記された様式となっており、以下の外国語に対応しています。
この請求書は、日本年金機構のホームページ「脱退一時金に関する手続きをおこなうとき」からダウンロードできるほか、「ねんきんダイヤル」に電話することで郵送もしてもらえます。また、年金事務所または街角の年金相談センター、市区町村および自治体の国際化協会でも入手が可能です。
添付書類等
添付書類は以下の通りです。
もし企業が代理人になる場合は、上記の申請書と添付書類を退職前に用意するようにしましょう。
表引用:日本年金機構|脱退一時金を請求する方の手続きより
必要書類の提出完了後、どのくらいで支給される?
脱退一時金は、提出した書類に不備や確認事項等がなければ、請求書の受付後、およそ4カ月後に支払われます。
また、脱退一時金の送金と同時に「脱退一時金支給決定通知書」が送付されます。
書類に不備がある場合、脱退一時金の支給額の決定及び支払いまでに時間がかかるため、日本年金機構のホームページの年金Q&A「脱退一時金を請求するにあたって、どのような点に注意すればよいですか」に記載してある内容を確認することをオススメします。
受け入れ企業が脱退一時金について気をつけるべきことってある?
ここでは脱退一時金について、外国人労働者を受け入れる企業側が気をつけておくべきことについて見ていきます。
脱退一時金取得のための長期離脱が発生する | シフト・人員計画に要注意
まず気をつけるべきことは、雇用した外国人労働者が脱退一時金を取得するために長期帰国をする可能性があることです。
前述の通りの支給要件を満たしていれば脱退一時金の請求は可能ですが、実際に請求をするためには退職、住民票の転出をし日本を出国してからでないとできません。
また、脱退一時金の支払いまではスムーズにいって約4ヶ月程かかりますが、この期間は母国に待機していないといけないと勘違いをしている外国人の方もいらっしゃいます(実際は必要書類を国外から提出しさえいれば、支払い完了前に日本へ戻ってきていても問題ありません)。
特に技能実習を修了された方は、技能実習2号満了時で満3年、技能実習3号満了時で満5年日本に滞在しており、脱退一時金を取得する名目に加えて久しぶりに2-3ヶ月実家に帰りたいと希望されるケースもよくあります(各国における旧正月や宗教イベント発生時期に被せて長期帰国されるケースもあります)。
そのため、雇用した外国人労働者が、脱退一時金取得のために数ヶ月もの長期帰国をしてしまうケースもあり、シフトに穴が空いてしまう、最悪の場合、そのまま日本に帰国しないなどのケースが起こり得るのです。
脱退一時金は外国人労働者に認められている権利なので、それによる長期離脱を100%防ぐのは難しいですが、以下のような対策で少しでも労使間での認識齟齬が無いようにすることが大切です。
日本での就労期間と脱退一時金取得の予定を正しく把握する
繰り返しになりますが、脱退一時金の支給上限が5年間のため、日本で就労を開始してから通算で5年間経過したタイミングで脱退一時金を取得しようと考える外国人労働者は少なくありません。そのため、脱退一時金取得予定を確認し、予め長期離脱の可能性を企業側でしっかりと把握しておきましょう。
3号満了者の元技能実習生をなるべく雇用し、在留資格変更の期間中に脱退一時金を取得してもらう
技能実習生の最長在留期間は、脱退一時金の支給上限と同じで5年間です。また技能実習生が引き続き日本で就労をする場合は在留資格の変更が必要になります。
そのため、3号満了者の元技能実習生を雇用し、在留資格の変更期間中に一時帰国をしてもらい脱退一時金を取得してもらうとスムーズです。
なるべく多国籍の外国人を雇用する
前述の通り、外国人が帰国をするタイミングとして多いのが「年末年始」「宗教的なイベントの時期」です。
同じ国籍の外国人を雇用している場合、同じ時期に脱退一時金のために帰国をする可能性ももちろんですが、年末年始や宗教イベントのタイミングで一斉に帰国したいという相談も弊社顧客で実際に過去発生していました。
そうならないためにも、特定の国籍者のみを採用するのではなく、例えばですがインドネシア1名、ミャンマー2名、ネパール1名など、採用する人材の国籍をバラすことで、同時期に全員一斉帰国というリスクを軽減させることが可能になります。
申請は企業ではなく、基本的には本人が実施する
脱退一時金の支給申請手続きは、請求者(本人または代理人)が行う必要があります。
ここで、外国人労働者側のよく勘違いとして、企業側が脱退一時金の手続きをしなければならないと思っている方がいらっしゃいます。
企業が本人の委託により代理人になることで、代理で請求手続きを実施可能ですが、正直、必要書類を集めて母国から国際郵便で書類を郵送するだけで、難しい手続きは何1つありません。
そのため、請求者が企業であると勘違いしている外国人労働者に対しては、必要書類や手続き方法についてアナウンスしていただいた上で、無駄なトラブルにならないように気をつけましょう。
脱退一時金が支給された後の年金加入期間の取り扱い
外国人労働者が脱退一時金を受け取った場合は、計算の前提となったすべての期間(日本で就労した期間)は日本での年金加入期間でなかったことになります。そのため、再度日本に戻ってくる見込みがある場合は、受け取らないという選択肢もあります。
さらに、社会保障規定を結んでいる国の方が脱退一時金を受け取った場合は、同様の期間が母国での年金加入期間から除外されるので注意が必要です。
また、脱退一時金を受け取った後に、再来日し再度脱退一時金の支給要件を満たした場合には、改めて脱退一時金の支給を受けることができます。
社会保障規定で年金加入期間の通算ができるのか、再来日の可能性があるのか、、、等をあらかじめ確認した上で判断をしたほうが良いでしょう。
まとめ
今回は外国人労働者が国民年金や厚生年金に加入した場合、不利益を回避する措置として設けられる脱退一時金制度について詳しく解説してきましたが、いかがでしたか。
当社は外国人労働者を専門とした人材紹介サービスを提供しており、外国人労働者を活用したい企業様の支援をさせていただいております。
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