試行錯誤から生まれた、外国籍社員との共生|入社前研修から異文化理解まで、組織的支援で定着率向上へ

日本の労働人口減少が進む中、外国人材の採用と定着は多くの企業にとって重要な経営課題となっています。セールスプロモーション事業を主軸に、ホテル運営や教育事業など多角的な展開を進める株式会社マーキュリーでは、2017年から外国籍社員の採用を本格化しました。現在では16カ国から約220名もの外国籍社員が在籍しています。

同社の特徴は、採用から定着支援まで、きめ細やかな体制を構築している点。入社前からの日本語研修や、文化・マナー研修に加え、現場でのOJTとは別に「エージェントサポート部」による定着支援を実施しています。さらに、日本人社員向けの異文化理解研修も実施し、相互理解を深める取り組みを行っています。

今回は、人材開発部門での経験を経て、現在はコーポレートコミュニケーション本部長として広報・採用を統括する八木様に、外国籍社員の採用・育成に関する取り組みについてお話を伺いました。

世界16カ国から220名が集う、多様性あふれる職場づくりへの挑戦

快くインタビューにお答えいただく八木様

ーー貴社と八木様について簡単にお伺いできますでしょうか?

セールスプロモーション事業を主軸に、クライアント様の販売や営業支援を行っております。

私が入社した2016年当時は携帯電話や家電販売が事業の95%近くを占めておりましたが、現在では観光事業(ホテル運営や空港でのグランドスタッフ業務)や教育事業(通信制高校や日本語学校の運営)など、多角的な展開を進めています。

2024年には親子3世代で楽しめる仕事体験テーマパークをオープンしました。3歳から15歳を中心に楽しんでいただける「カンドゥー」の日本2号店を宮城県利府町で運営させていただいています。

私自身は2016年に入社し、人材開発部門での研修業務を担当後、採用業務に取り組み現在まで至ります。

ーーー外国籍と日本人の割合としてはどのような形になっていらっしゃいますか?

現在、約5,400名の社員がおり、そのうち外国籍社員が220名ほどです。

日本語が話せる・使えるというのが前提で、母語が中国語や韓国語、英語などさまざまな国籍の方がいらっしゃいます。お客様にそういう方がいらっしゃった際に通訳として活躍していただいていますね。

外国籍社員の採用を本格化したのが2017年頃で、以降は100名〜300名ぐらいの間で推移している状態で、16カ国以上の方が在籍されています。

ーーー2017年に外国籍社員の採用にアクセルを入れ始めた何かきっかけがあったんですか?

2016年よりも以前、当時の社長(現在の会長)が「日本国内の労働人口の減少」を見据え、外国籍人材の採用を積極的に開始しました。

採用活動をスタートしてみると、意外と反応が良く、海外現地から日本に就労ビザで来てくださるので、「これはいけるんじゃないか」という手応えを感じていました。

そんな背景から、安定的に採用していこうとなり、社長以外の人事担当も外国籍社員の採用に携わるようになったのが2017年です。

ーーー現場サイドとしては「ちょっと不安だな」とかはありませんでしたか?

もちろん全員が賛成というわけではなかったと思います。

でも、それはどんな事象でも同じだと思っています。今回は国籍や働く社員の形態の話ですが、新規事業を展開するときも「そんなの今までやったことがないのでできない」という、同じぐらいの抵抗感があったかと思います。

なので、トップダウンで進めつつ、現場メンバーともコミュニケーションを取りながら、ハイブリッドのような形で融和させていきました。

ーーー外国籍人材の方の採用はどのような形で実施されていますか?

主な採用経路としては3つあります。

一般的な求人媒体に総合職や地域限定職という、日本人と変わらない職種で求人を出していて、そこに自然応募いただくのが一つ。具体的な媒体名ですと、Indeedやマイナビなどから、国籍問わず応募があります。

もう一つは人材エージェントから新卒・中途問わずご紹介いただくパターンがあります。最後に、就職フェアやイベント参加から繋がっていく形です。

ーーー面接自体は人事部門でやられているんですか?

面接はオンラインと対面を組み合わせて実施しています。日本国内にお住まいの方であれば、オンラインのみで完結することはなく、一度は対面で直接お会いさせていただいています。ステップとしては、オンラインのカジュアル面談で、どれくらい会話できるかを確認します。

その上で採用手法は2通りです。一つは、国内留学生や就労ビザをすでに持っていらっしゃる方の場合は、1次面接が人事部門で、2次面接が配属部門・営業部門での実施がスタンダードです。

もう一つは、国外にお住まいの方のパターンです。現地の人材エージェント協力のもと直接会い、選考するイメージです。主に中国、韓国、台湾が多いです。月1回くらいの頻度で海外選考会を実施しています。

一方、留学生の方は、ベトナムやミャンマー、ネパールやパキスタンといった方が多い傾向にあります。基本的にはN2レベル以上の方を採用しています。N3レベルでも会話やコミュニケーションに支障がなく1人で話せるということであれば、採用する場合もあります。

ーーーエージェントを選ぶときの何かポイントはありますか?

担当者とのコミュニケーションが取れることですね。

エージェントによって違いはあると思います。日本で就業したい人をしっかり支援したいという気持ちを本当に持っているかどうかで、結果が変わっているように感じます。

ただ人材紹介してほしいというだけではなく、入社後からが大切だと考えています。将来的にいつか母国に帰られるにしても、日本での就業経験や体験は必ず活きることになると思っているので、入社して短期間で終わりにならないようにしたいのです。

入社前から始まる充実の育成プログラムで、スムーズな現場適応を実現

ーーー外国籍人材を受け入れる際に課題を感じることはありますか?

語学力について、入社後の育成やフォローを担う配属部門から厳しい声が上がることがあります。

例えば、海外に在住している方が、ビザ申請後に入国するまで、3ヶ月から半年ほどかかることがあります。その間に学習を中断してしまうと、日本語力が低下し、入社時点での意思疎通が難しくなることについて指摘されることがあります。

ーーーどう対処されているんですか?

2024年夏から始めた取り組みとして、国外在住の方を対象に、入国までの期間中に2週間に1回ほど、任意参加で日本語トレーニングを人材開発部門が実施するようにしました。

現地在住の方は、ネイティブの日本人と会話する機会がほとんどないためです。

積極的な性格の方はご自身でアプリなどを使って会話練習を行いますが、そうでない方は日本語の本を読んだり、ニュースを見たりしています。本を読むことは悪いことではありませんが、話す力を維持するために、こちらからオンラインでつなげて練習する時間を取っています。

ーーー入社される前から研修を実施されているんですね

そうですね。

入社前の内定者研修として「日本文化と就業マナー研修」という1日コースの研修を、日本での生活経験がない方を対象に実施しています。例えば、日本におけるゴミの分別なども内容に含みますが、「そんなルールや習慣があるんだ」というような反応をされる方も多いですね。

その後、2日間の新入社員研修があり、日本人と一緒に受講します。その後は現場での研修です。

実際に現場に配属になったら、基本的にはOJTという形で、業務をしながら実践的に習得いただきます。コンビニエンスストアでのアルバイト経験や、母国での接客経験、日系企業で働いた経験のある方がほとんどなので、主に現場での専門的な知識を覚えていただいていますね。

ーーー実際に初の外国籍人材が入社されてみて現場からはどんなフィードバックがありましたか?

さまざまな反応があったのですが、ほとんどの方は日本語が上手に話せるので、コミュニケーションという面での苦労はなかった様子ですね。

加えて、さまざまな国の方がお客様として来てくださるので、インバウンド・通訳対応という面で本当に活躍してくれました。

一方で、時間の正確さなど、文化的な違いがあることを徐々に学習していきましたね。都度、そういう発見・学びから社内研修も随時アップデートしています。

ーーー文化的な違いを理解するのは大変そうですが

おっしゃる通りですね。

当社は中国籍社員が多いので、中国の考え方や国の文化について違いを理解するための、日本人社員向け研修を実施しています。

例えば、接客の場面では日本人ならお客様のそばに膝をついて説明することが一般的だと思いますが、中国では膝をつくことは過度にへりくだる行為だと捉えられる場合があり、適切でない場合もあります。

また、日本ではにこやかな表情をすることでお客様に安心感を与えるとされていますが、中国では真剣な表情で会話をすることが一般的です。そのため、笑顔で接すると「ニヤニヤしている」や「ヘラヘラしている」といった印象を与える可能性があります。

このように、日常の何気ない行動や表現が文化によって異なる意味を持つことがあるため、相互理解を深める目的で、「このように対応すると良い」という知識を共有しています。

小さいボタンの掛け違いを直すような活動を積み重ねていくと、コミュニケーションがスムーズになりますね。実際に社員同士で話してみると、「こんなケースもあるよ」といった具体的な事例を教えてもらえることが多く、生の情報源としてすごく貴重ですね。

独自の「二重サポート体制」で定着率向上を目指す

マーキュリー_VRオフィスツアーの様子
採用サイトからVRでのオフィスツアーにも参加可能

ーーー外国人材=短期離職というイメージを持つ会社様も多いですが貴社の場合はどうですか?

短期で退職されるケースは事実としてあります。全員がそうではないですが、外国籍社員の方が離職するまでの期間は短いと思います。ただ、一人一人それぞれ違い、長く勤続される方もいらっしゃいます。平均を取ると、どうしても短期離職にある傾向になってしまいます。

「思っていたことと違う」「自分に向いていない」という理由が多い印象です。面接時には、会社の方針だけではなく、業務内容について率直に確認はしていますが、「違います」というケースは一定数出てきています。

ーーー定着率を高めるような取り組みは何かされていますか?

定着率に関しては、外国籍社員専属というわけではないですが、「エージェントサポート部」という部門を設けて、社員が働きやすい環境を整えるためのサポートを行っています。

具体的には、個別面談を通じて問題や悩みがないかを確認し、定期的なフォローを行っています。直接コミュニケーションを取って、日頃の困りごとや、うまくいっていないことなどをサポートしています。

そのため、当社では、現場でのOJT担当や先輩社員による指導と、エージェントサポート部による支援という、2つの軸で定着支援を行っています。

ただし、このような体制が最初から整っていたわけではありません。これまでの経験や課題を踏まえて、少しずつ発見を重ねながらアップデートしてきた結果です。

教育やサポートの仕組みを作ったことで、現在では目に見えてフォローができるようになってきたことが良かったと思っています。

ーーーその他で特別に取り組まれていることはありますか?

拠点によって異なりますが、社内イベントとして、バーベキューなどの国籍を問わず社員同士が交流できる場を設けています。

仕事以外での交流を希望しない社員もいるため、参加は任意です。先日の東京での交流会は約70人の社員が集まりました。

ーーー今後の課題・展望みたいなものはありますか?

これまで培ってきたノウハウを活かして、国外にお住いの外国籍の方をさらに多く採用していきたいですね。2025年には、2024年の入社数(60人)から約20%増加させることを目標としています。

一方で、韓国での採用は、難しい状況になりつつあります。現在、韓国内の給与水準が日本とほぼ同等、もしくはそれ以上になっており、海外就労のメリットが薄れてきています。

そのため、採用の難易度は国籍によって異なってくると考えています。

今後は、このような状況を踏まえ、具体的な対策を講じていく必要があると感じています。

ーーー最後に外国人雇用をご検討中の担当者様に一言お願いします!

まずは「採用してみる・やってみる」。そこから学びを得て進めていくという、まさに当社の進め方がもしかしたらいいのかもしれません。

初めから成功するということは私たちもなかったです。さまざまな課題が出てきて、そこを一つずつ丁寧に解決してきたというところが今に繋がっていって、やっとノウハウができ始めているという段階です。

入国前の日本語トレーニングは、夏から始めたことで、まだ半年も経ちません。それくらいアップデートに時間がかかり、ああでもないこうでもないというところを試行錯誤しながら過ごしているので、まずは1人採用して入社していただくことかなと思います。

ーーーありがとうございました!

編集後記

本日は株式会社マーキュリーの八木様に、外国籍社員の採用・育成における取り組みについて、貴重なお話を伺うことができました。

2017年から本格的に外国籍社員の採用を開始し、現在では16カ国から220名もの方々が在籍されている同社。「やってみるしかない」という言葉の通り、試行錯誤を重ねながら独自の採用・育成ノウハウを築いてこられました。

特に印象的だったのは、課題に対する柔軟な対応力です。入社前の日本語学習のサポートや、日本人社員向けの異文化理解研修など、現場で発見された課題に対して、迅速に新しい施策を打ち出されています。また、「エージェントサポート部」による定着支援など、組織的なバックアップ体制も充実しています。

外国籍社員の採用をご検討の企業様におかれましては、同社の事例のように、まずは1人から始めて、そこから得られる学びを活かしていくアプローチが参考になるのではないでしょうか。その際、採用時の日本語力だけでなく、入社後の教育体制や相互理解を深める仕組みづくりにも目を向けていただければと思います。

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監修者
編集
中村 大介
1985年兵庫県神戸市生まれ。2008年に近畿大学卒業後、フランチャイズ支援および経営コンサルティングを行う一部上場企業に入社し、新規事業開発に従事。2015年、スタートアップを共同創業。取締役として外国人労働者の求人サービスを複数立上げやシステム開発を主導。海外の学校や送り出し機関との太いパイプを活用し、ベトナム、インドネシア、タイ、ミャンマー、バングラデシュの人材、累計3000名以上の採用に携わり99.5%の達成率にて、クライアント企業の事業計画の推進に成功。このノウハウを活かし、パフォーマンスを倍加させた新しいシステムを活用し、国内在住の外国人材の就職の課題を解決すべく2021年に株式会社ジンザイベースを創業。趣味はキャンプとゴルフ。
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