インド人技術者、ベトナム人エンジニア、技能実習生、特定技能人材...。日本企業における外国籍社員の採用は、業種・職種を問わず拡大の一途を辿っています。しかし、この人材活用の現場では「早期離職」という大きな課題に直面しているのも実態です。
今回は、外国人採用に特化した適性検査「CQI」を開発した株式会社エイムソウルでマーケティングを統括する小野様に、採用・定着における新たな評価指標と、その背景にある組織づくりの要諦についてお話を伺いました。外国人材の「異文化適応力」と、受け入れ側の「異文化受容力」。この2つの要素を可視化することで見えてきた、グローバル人材マネジメントの新たな方程式に迫ります。
外国人採用における第三の選考基準「異文化適応力(CQ)」
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ーーー まずは小野様と貴社の事業概要についてお聞かせください
小野様:
エイムソウルでマーケティングを統括しております小野です。2004年に社会人となって以来、一貫して人材業界に携わってきました。新卒で人事コンサルティング会社に入社し、その後独立を経て、2011年にエイムソウルに参画しました。当初は人事コンサルタントとして営業活動に従事し、2014年からマーケティングを担当しています。
当社は新卒採用支援や新人研修サービス、講師派遣といった事業を展開する一方で、2014年頃からグローバルHR事業を開始しました。外国人採用に特化した適性検査「CQI」の提供と外国人材を受け入れる企業向けの研修・組織・採用コンサルティングサービスを展開しています。
人材紹介は行っていませんが、人材紹介会社様と協力し、集めていらっしゃる人材に対してCQIによる適性診断と入社後の定着を促進するため、受け入れ側の日本人社員向けに研修を提供していたりもします。
ーーー CQIについて具体的に教えてもらえますか?
小野様:
CQIは外国人採用に特化した適性検査です。SPIをはじめとする様々な適性検査がある中で、外国人採用に特化という点ではユニークな存在だと考えています。
外国人向けと日本人向けの検査で大きく異なるのは、CQIは異文化にどれだけ適応できるのかを定量的に測定できる部分です。外国人材が日本企業に就職する際、日本特有の企業文化への適応が重要になってきます。そのため、日本文化にどれだけマッチしているか、また異なる部分をどれだけ柔軟に適応できるか、この能力を見極めることに重点を置いています。
ーーー語学力やスキルよりも入社後の適応力を判断するツールということでしょうか?
小野様:
その通りです。優秀さを測るというよりも、日本文化への適応力を見極めることが主な目的です。端的に言えば、CQIで日本企業との相性を判断し、言語能力や特定の業務スキルといった部分は、SPIなど別のテストで補完していただく。そういった使い方を想定しています。
CQIを開発した当時、外国人材に特化した適性検査サービスを提供している企業は見当たりませんでした。現在も代替となるような競合サービスはあまり耳にしません。
また、外国人材の異文化適応力を測定するという検査システム自体が当時存在していなかったため、この技術については特許も取得しています。
ーーー CQI開発の背景について教えていただけますでしょうか?
小野様:
元々適性検査サービスの開発を目的としていたわけではなく、コンサルティング業務の中で直面した課題がきっかけでした。当社の代表である稲垣がインドネシアに移住し、現地拠点を立ち上げたところから始まります。当初は属人的なコンサルティングという形でスタートしました。
自動車メーカーなど、インドネシア現地の日系企業に「人事のお困りごと」についてヒアリングを行う中で、多くの日本人拠点長が現地スタッフについて課題を抱えていることが分かりました。「ルールを守らない」「遅刻が多い」「離職率が高い」といった問題が共通して挙げられ、個別に改善策や仕組み作りのサポートを行ってきました。
しかし、これらの課題に取り組む中で、外国人材の教育だけで解決できる問題なのか、という疑問が生まれてきました。調査を進めると、実は日本企業側にも課題があることが見えてきたのです。外国人材も日本人社員も、どちらも一生懸命に取り組んでいるにもかかわらず、なぜすれ違いが起きるのか。この問題意識から研究を深めていきました。
2017年からは、一橋大学名誉教授の米倉誠一郎氏や東京大学大学院博士の正木郁太郎氏など、ダイバーシティや文化、イノベーション分野の第一人者を招聘。社外の専門家も交えた研究チームを立ち上げ、より本格的な研究を進めています。
一例として、「1ヶ月のうち何回の遅刻を許容できるか」という国際比較調査を実施しました。韓国、中国、インドネシア、インド、アメリカの各国で調査を行い、興味深い結果が得られました。
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韓国では月3回まで許容、4回で不可。インドネシアはやや緩やかで月4回まで許容、5回で不可という結果でした。一方、日本だけが大きく異なり、月1回まではまあ許容できるものの、2回は不可という厳格な基準があることが浮き彫りになりました。さらに特徴的なのは、遅刻0回に対する評価です。他国では高く評価される一方、日本では「当然のこと」という認識でした。
この調査から、「時間を守る」という基準自体が国によって異なることが明確になりました。例えば、韓国の方からすれば月3回までの遅刻は許容範囲内なので、日本企業からの厳しい指摘に戸惑いを感じることになります。
また、外国人材からは「終業時間は守らないのに、始業時間だけ厳しいのはなぜか」といった疑問の声も。こうした文化的な基準の違いが、様々なすれ違いを生んでいることが分かってきました。
この課題に対する解決策を探る中で、海外で研究が進められていたCQ(Cultural Intelligence Quotient:文化的知能指数)という概念に着目しました。CQはIQやEQと同様に、文化への適応力を示す指標です。モチベーション、知識、行動、メタ認知という4つの要素で構成されており、グローバル社会では重要な能力として注目されています。
当初は面接官研修などを通じてCQの高い人材を見極める方法を模索していましたが、言語の壁により深い理解を得ることが困難でした。そこで、応募者が母国語で受検できる適性検査の必要性を認識し、CQIの開発につながります。
ーーー CQIはインドネシアでのコンサルティング経験から生まれたということですね
小野様:
はい。最初からテストを作ろうと考えたわけではなく、お客様の課題解決を模索する中で生まれてきたソリューションです。
ーーー現在は多言語対応されているそうですが
小野様:
12カ国語に対応しています。技能実習生の受け入れ増加に伴い、ネパール語など対応言語も拡充してきました。
ーーーどのような企業が導入されているのでしょうか?
小野様:
IT企業、営業職から現場職まで、業種や職種を問わず導入いただいています。在留資格も高度人材から技能実習、特定技能まで様々です。外国籍の方の採用時であれば、どのような場面でも活用していただけます。
活用のタイミングは主に2パターンあります。1つ目は、現地在住の方を採用する際。特に技能実習生の場合は多いケースです。スマートフォンからも受検可能で、現地での実施に対応しています。
2つ目は、既に日本に在住している外国人材が転職する際のケース。全てWeb上で完結し、受検後すぐにシステムが判定を行い、結果が出る仕組みになっています。居住地やデバイスを問わず、柔軟に対応できる設計です。
ーーー 監理団体や人材派遣会社での活用もあるとお伺いしましたが?
小野様:
監理団体では、来日前のスクリーニングツールとして活用いただいています。定着率の向上や入社後トラブルの低減を目的に、事前に適性を見極めた上で日本への斡旋を行うケースが多いですね。
また、外国人材を専門とする人材派遣会社での活用も増えています。特に興味深い事例として、IT人材の派遣会社での活用例があります。派遣先企業によって求める人材の特性が異なるため、CQIの結果を活用したマッチングを行なわれています。
例えば、研究開発系の企業には、チャレンジ志向が強く新しいことに積極的に取り組める人材を。一方、インフラ系企業には安全志向の強い人材を、といった具合です。派遣会社は自社の外国人材の特性とCQIの結果を照らし合わせながら、最適なマッチングを実現しています。
ーーーCQIでは適応特性以外にも個人の行動特性も測定できるのですね
小野様:
はい。外国人材に特化した形で行動特性も測定します。例えば「手際の良さ」や「洞察力」といった項目は、日本企業が共通して求める特性です。特に接客業、ホテルや飲食業では、「おもてなし」に必要な洞察力が重要になってきます。
日本人の場合、「空気を読む力」は社会の中で自然と育まれますが、海外で育った方々にとっては、そもそもその経験自体が少ない。そのため、外国人材の採用では、この対応力を事前に見極めることが非常に重要になってきます。
ーーー 各社におけるCQI導入の主な理由を教えていただけますか?
小野様:
主に2つのケースがあります。1つ目は、早期離職や企業文化とのミスマッチといった課題への対応です。文化的なギャップが原因で早期離職につながるケースが多く、これを防ぎたいという企業のニーズがあります。
2つ目は、これから外国人採用を始めようとする企業からの相談です。日本人材とは異なる視点での選考が必要だと認識しているものの、具体的に何を重視すべきか分からないというケース。当社の分析から、CQIの評価項目が重要なポイントになることが分かっているので、採用基準の指標として活用いただいています。
ーーー導入企業からはどのような反応をいただいていますか?
小野様:
最も多い声は、「可視化されている点が有益」というものです。母国語が異なる場合、面接でどのような質問をすべきか悩まれる企業が多いのですが、応募者が母国語で受検できるCQIによって、客観的な指標が得られます。これにより、面接での確認ポイントが明確になり、面接時の補足資料として重宝いただいています。
また、データを蓄積していくことで、組織全体の傾向も見えてきます。定着して活躍している社員と、早期離職者やトラブルが発生したケースの違いが数値として把握できるため、採用活動の指標としても活用いただいています。
外国人材の早期離職対策には「外国人側の適応」と「日本人側の受容」がカギ
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ーーー 外国人材の離職に関して根本的な原因をどのように分析されていますか?
小野様:
外国人材側と日本人側、双方に課題があると考えています。当社のセミナーでも強調しているのですが、「外国人側の適応」と「日本人側の受容」、この両方が重要なんです。
この理想的なモデルとして、ラグビー日本代表チームを例に挙げることができます。チームの約半数が外国籍選手ですが、「勝利」という共通の目的のもと、お互いの良さを活かしながら歩み寄り、世界を驚かせる結果を残しました。外国籍選手が日本を尊重しつつ、日本人側も外国籍選手の文化や考えを受け入れる。この双方向の関係性が理想的だと考えています。
実際の離職状況について、当社で61カ国477名を対象に調査を実施しました。結果として、入社後1年以内に3割の方が離職していることが分かりました。日本人新卒の場合、3年で3割と言われていますので、外国人材の離職率の高さが際立っています。

退職理由の上位には、「上司のマネジメント・指導への不満」が1位、「業務内容のミスマッチ」が2位となっています。「分かりづらいルール」や「上司の指示内容が理解できない」といった声が多く、特に時間管理などの面で認識のギャップが大きいようです。
つまり、CQIで適応力の高い人材を採用することは重要ですが、同時に日本人側の受容力を高める取り組みも必要不可欠だということです。
ーーー 在留資格によって離職傾向に違いはありますか?
小野様:
こちらも過去の調査の結果、意外にも高度人材の方が1年以内の早期離職率が高いことが分かりました。
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高度人材は35%が離職経験があると回答しています。一方、技能実習・特定技能は制度上の制約があるものの、離職を希望しなかった方が80%と高い数字を示しています。
この違いの背景として、業務範囲の明確さが関係していると考えられます。技能実習・特定技能は事前に業務内容が明確に定められているため、ミスマッチやリアリティショックが少ない。一方、高度人材は業務範囲が広く、「総合職」のような日本特有の雇用形態もあり、想定と実際の業務にギャップが生じやすい状況があります。
外国人材定着の新たな方程式「3つの意識と5つの行動」
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ーーー 日本人側の受容力についてはどのように取り組まれていますか?
小野様:
CQI開発後、日本人側の受容力向上の重要性が明確になり、日本人向けの検査も開発しました。外国人材を受け入れる力として、「3つの意識」と「5つの行動」が重要だと分かってきています。
意識面では、外国人材受け入れの必要性の理解、自信、熱意が重要です。行動面では「環境適応支援」と「業務支援」の2つに大別されます。環境適応支援は安心安全な環境づくりや個人的な関係性構築、業務支援は母国語マニュアルの作成や昇進に向けたフィードバックなどが含まれます。
環境支援をする上で特に重要視したいのが文化的な価値観の違いです。東南アジアの方々は家族的な関係性を重視する傾向がありますが、日本人はそれと比較すると個人主義的。そのギャップが「日本人の同僚や上司がランチに誘ってくれない」「雑談に入れない」といった不満につながることもあります。近年の「飲みニケーション」離れなど、日本の職場文化の変化も、こうした課題に影響を与えているかもしれません。
ーーー職場での人間関係構築には現代ならではの課題がありますね
小野様:
そうですね、日本人側も悩ましい状況にあります。近年のパワハラへの意識の高まりから、「業務外の時間に食事に誘っても迷惑ではないだろうか。外国の方は家族との時間を大事にするというし…」と躊躇してしまう。お互いに関係性を築きたいのに、一歩を踏み出せない状況が生まれています。
ーーーリモートワークの普及によってさらに課題が複雑化しているのではないでしょうか?
小野様:
その通りです。リモートワークでは業務以外の会話が極端に減少し、環境適応支援が難しくなっています。これは外国人材だけでなく、日本人の新入社員にとっても同様の課題です。
こういった状況に対して、まずは当社の検査を使って現状を可視化することをお勧めしています。個人レベルでの強み弱みを明確にした上で、組織全体でプロットすることで、具体的な施策を検討できます。

例えば、縦軸を意識・モチベーション、横軸を行動とした座標で受け入れ部署の日本人社員をマッピングします。右上に位置する受け入れ力の高い日本人社員の部署に優先的に外国人材を配置したり、左下に位置する日本人社員向けに研修を実施したりといった具体的な施策を導き出すことができます。
曖昧な状態を数値化・可視化することで、より効果的な対策を講じることが可能になるのです。
ーーー異文化適応力は後天的に向上させることは可能なのでしょうか?
小野様:
十分に可能です。性格特性の中で開放性、利他性、外向性といった要素は変わりにくいとされていますが、それ以外の部分は変容が可能です。
特に「必要性の理解」「自信」「熱意」といった意識面は、現場で働く外国人材の価値を理解することで大きく変わります。例えば人手不足に悩む業種では、人事部門が現場に対して外国人材採用の背景や必要性をしっかりと説明することで、数値の改善が見込まれます。
また、研修を通じて各国の文化的特徴やマネジメントのコツを学ぶことで、自信や熱意も向上していきます。
ーーー現場での具体的な取り組み事例を教えていただけますか?
小野様:
あるホテルチェーンの事例をご紹介します。大手ホテルA社では、多くの他企業と同様に外国人採用を「とりあえずやってみる」という形で始めました。現場の日本人管理職や同僚も、手探りの状態で対応していて、「これを言って良いのか」「どう接すれば良いのか」と悩みながら、独自の方法で進めていました。
こうした状況に対して、当社の検査で現状を可視化し、必要な行動や意識を明確にしたところ、より効果的なアプローチが可能になりました。研修を通じて「これが効果的なポイントなんだ」という理解が深まり、現場の自信にもつながりました。
ーーー初期の取り組みが重要になってくるのですね
小野様:
その通りです。最初の受け入れがうまくいけば第2期生の採用にも前向きになりますが、失敗してしまうと「やはり外国人材の採用は難しい」という結論になりがちです。
しかし、当社のサービスを活用し、数値化・可視化した上で進めることで、そうした失敗のリスクを軽減できます。また、一度うまくいかなかった企業でも、2回目のチャレンジ時に当社のサービスを導入いただくことで、より確度の高い取り組みが可能になります。
PDCAサイクルを回す上で重要なのは、何がうまくいって何がうまくいっていないのかを明確にすることです。検査による可視化で次のアクションが具体的に見えてくるため、漠然とした不満で終わることなく、建設的な改善につなげることができます。人事部門の方々にもこういった形で効果的に活用いただいています。
編集後記
今回は、外国籍社員の「異文化適応力」に焦点を当てた適性検査CQIを開発・運営する、株式会社エイムソウル・小野様にお話を伺いました。
同社が61カ国477名を対象に実施した調査では、外国人材の3割が入社1年以内に離職。その背景には、日本企業特有の文化や働き方へのギャップが存在していました。例えば「遅刻の許容範囲」一つを取っても、国によって大きな認識の違いがあることが浮き彫りになっています。
しかし、この課題は外国人材側の適応努力だけでは解決できません。インタビューを通じて見えてきたのは、受け入れ側の日本企業における「異文化受容力」の重要性でした。パワハラへの配慮やリモートワークの浸透など、職場環境が大きく変化する中、いかにして異文化コミュニケーションを実現していくか。
可視化された数値をもとに、具体的な施策を講じていく。その積み重ねが、真のダイバーシティ実現への第一歩となるのではないでしょうか。